動物モデルにおいて、近年癌治療薬として実用化されたPD-L1/PD-1結合阻害薬と、当研究室で免疫系を介した腫瘍縮小効果を持つことが見出されたメトホルミン との併用治療が、それぞれの単独治療と比べて相乗効果があることが、予備実験にて見出されていた。これらの治療薬の作用メカニズムについて、細胞障害性T 細胞の質的変化を調べるため、腫瘍浸潤T細胞をソーティングにより分取し、その遺伝子発現プロファイルを解析した。 未治療群と比較し、メトホルミン治療群、抗PD-L1抗体治療群、併用治療群では、発現量の異なる遺伝子がいくつか認められ、特に併用治療群において免疫反応 に関わる遺伝子群の発現が高まることが認められた。また、いくつかの転写因子の下流に位置する遺伝子群の発現も、併用治療群において高まることが認められ た。メトホルミン単独治療、抗PD-L1抗体単独治療ではこれらの遺伝子の発現を高めるのには十分でなく、これらの薬剤の作用点が異なること、併用治療の相乗 効果があることが、発現プロファイル解析からも認められた。 続いて、同じく動物モデルにおいて、未治療群とメトホルミン/抗PD-L1抗体併用治療群での腫瘍浸潤T細胞について、T細胞レパトワの同定を試みた。腫瘍浸潤T細胞をシングルセルソートにより分取し、得られたmRNAの配列を確認したところ、T細胞のクローナルエクスパンジョンが認められた個体が、未治療群では5個体中3個体、併用治療群では5個体中4個体であった。また、クローナルエクスパンジョンを起こしているT細胞のクローン数についても、併用治療群でより多い傾向にあった。 本研究において、メトホルミン/抗PD-L1抗体併用治療群ではより多くの細胞障害性T細胞クローンの活性化を促していることが示唆された。今後、これらのクローンの認識抗原の同定を試みる予定である。
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