本研究の目的は抗腫瘍性リボヌクレアーゼを利用して、新領域のがん治療法を開発することである。 昨年度は、リボヌクレアーゼ活性を有するウシガエル卵由来シアル酸結合性レクチン (cSBL) を長期間処理することにより樹立した cSBL 耐性悪性中皮腫細胞を用いた遺伝子マイクロアレイ解析から、親株と比べ発現が変動する遺伝子を合わせ 972 個検出した.本年度は、マイクロアレイ解析の結果をリアルタイム PCR 法およびウェスタンブロット法により確認した。 マイクロアレイ解析により cSBL 耐性細胞で発現の上昇または低下が示された上位5遺伝子についてリアルタイム PCR 法による発現解析を行った結果、マイクロアレイ解析の結果と同様な傾向が得られた。さらに、発現が低下することが明らかになった遺伝子の中に aldo-keto reductase (AKR) family 分子が複数含まれていたため、それらに着目した。発現低下遺伝子の中に含まれる AKR familyを精査した結果,6 種の AKR family 遺伝子の発現が低下しており、その発現比は -9.1 ~ -562.0 倍であった。そのうち、AKR1B10 は、肺がんなどで過剰に発現しており、シスプラチンなどの抗がん薬に対するがん細胞の耐性化にも関与していることが報告されている。リアルタイム PCR 法およびウェスタンブロット法による発現解析から、cSBL 耐性細胞において AKR1B10 の発現量が mRNA およびタンパク質レベルで著しく減少していることが示された.AKR1B10 は、バイオマーカーとしてだけでなく、ある種のがんの治療および化学療法抵抗性のための新規な治療標的としても認識されてきた酵素である。今回の結果から、 AKR1B10 の発現低下作用をもつ cSBL が、上記化学療法抵抗性の改善に貢献できる可能性が考えられた。
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