研究課題
非小細胞肺がん治療にけるEGFR変異やALK融合を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は高い奏効性を示すが、治療経過中にほぼ全例で耐性を獲得する。EGFRのT790M等の2次変異の発見は、変異特異的に有効なTKIの開発により克服され、無増悪生存期間の延長につながったが、バイパスシグナル経路形成などにより再増悪に至ることは避けられず、依然薬剤耐性の完全な制御には至っていない。そうした中、報告者らの所属する研究室らにより報告された(Kohno T, et al. Nat Med. 2012)、肺腺がんの約2%に存在するRET融合遺伝子は肺がんにおける新たな治療標的であることが明らかとなってきた(Yoh K, et al. Lancet Respir Med. 2016)。しかしながら、RET融合陽性例においてもほぼ全例でTKIへの耐性が半年程度で出現し、その克服を目指した治療法の開発が求められている。最近、我々はRET融合治療後の耐性獲得症例の資料を解析する中で新たに同定した2次変異S904Fが薬剤耐性に寄与することを報告した(Nakaoku T, et al. Nat Commun. 2018)。しかしながら、治療耐性例で2次変異を認めない場合もあり、その他の機序による耐性機構獲得の可能性も示唆される。本研究では、RET融合遺伝子陽性肺がんにおける薬剤耐性を対象に、主にバイパス経路形成に関わる細胞内因子に着目し、耐性機構解明とその制御に向けた知見を得ることを目標としている。RET融合遺伝子陽性肺がん細胞を株を用いて、がん関連遺伝子のターゲットシークエンスを行い薬剤耐性株での遺伝子変化を調べた。また、薬剤暴露下の細胞内外のシグナル関連遺伝子活性化の変化を調べ、細胞内シグナルの変化を確認し、その機能解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
薬剤耐性細胞株を作成し、耐性に関わる因子の同定および検証を行った。現在市販されている唯一のRET融合遺伝子陽性ヒト肺がん細胞であるLC-2/adを用いて、バンデタニブおよびカボザンチニブ等の複数のRET阻害剤に対する薬剤耐性株を樹立した。臨床応用の期待されるRET阻害剤に対する耐性株をすでに樹立した。これらのLC2/ad耐性細胞株に対して、癌関連遺伝子90個のホットスポットを調べるターゲットシークエンスを行ったが、遺伝子変化は認めなかった。バイパス経路の探索のため、抗体アレイを行い、耐性細胞では複数のキナーゼタンパク質の活性化が認められた。また、シグナル変化をもたらす細胞内の発現機構を見るために、アレイ型のマルチレポーターアッセイを行い、細胞膜受容体及び複数の転写因子の活性型認められた。また、LC2/ad親株に対して、活性化の認められた受容体に作用するリガンド加えることで、薬剤感受性は実際に低下させた。同定している候補因子には、がん幹細胞様形質の獲得に寄与することが報告されているものも含まれていることを確認し、機能解析を行っている。
候補因子として抽出した、関連する有望な耐性関連遺伝子は、RNA干渉発現抑制やORFレンチウイルスベクター並びにその他経路を抑制する阻害剤を用いて、薬剤の存在の有無によって変動する耐性候補遺伝子に関連するシグナル経路を調べる。その際には、シグナルサーキット形成に関連する成長因子等に着目し、それらのシグナルサーキットにおける機能的な意義を明らかにする。また、その制御によるシグナルの変化を調べ、耐性克服に向けた知見を得ることを目指す。得られた結果を、マウスの移植モデルを用いて検証する他、RET-TKI治療例の臨床検体を用いて、免疫染色解析等にて実際の肺がん症例における意義についても確認していく。
細胞内遺伝子の活性化状況を調べるスクリーニングに関わる高額なライブラリーの購入費用およびその解析に関わる外注サービス費用に用いることを目的に、次年度に使用額として繰越計上した。
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Nature Communications
巻: 9 ページ: 625
10.1038/s41467-018-02994-7