腫瘍では免疫抑制に寄与する制御性T細胞(Treg)が正常組織よりも高い割合で浸潤、活性化し免疫抑制状態になっている (活性化Treg: eTreg)。腫瘍局所でのeTregの機能阻害はがん免疫療法の有効な手段である。 本研究は局所のeTregのエネルギー代謝を解析し、機能抑制の新しい標的を見出すことを目的とした。 昨年度の報告のように腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)においてeTregの酸化的リン酸化を解析することが困難だったために実際の解析はTILを単離してミトコンドリアの膜電位 (MMP)を調べ、さらにその維持に使用される基質を特定した。 まずTILのMMPを調べると、ほぼMMPを維持している検体から、低下し始めている検体、全て消失してしまっている検体があった。MMPの維持の程度と臨床情報とは相関関係が見出されなかった。しかしTILを単離した組織の乳酸の蓄積を調べたところ、乳酸濃度が高いほうがTILのMMPの維持度合いが低いことがわかった。先行研究より腫瘍組織の乳酸濃度の高さとグルコース濃度は逆相関することが知られており、腫瘍組織において解糖系が亢進して周囲の飢餓状態が進むほどTILのMMPを維持するための基質が不足してMMPが低下していくと考えられる。 そしてTILのMMPを維持している検体についてMMPの基質を調べたところ、eTregは抗腫瘍免疫に寄与するTeffより周囲に豊富にある乳酸を使用していることがわかった。実際にTILのeTregでは乳酸トランスポーターであるMCT1とそのシャペロンタンパク質であるCD147の発現が有意に高いことも明らかになった。以上からTILにおいてeTregは周囲に豊富にある乳酸を効率的に使用することによってMMPを維持し、Teffに対して優位性を持つと考えられる。現在、TILのeTregにおける乳酸代謝を標的とした薬剤を検討中である。
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