研究実績の概要 |
ヒトを含む自然界の生物は、各々にとって適切な栄養を摂取することで生命活動を行っている。しかし、栄養バランス変化に対して、個体はどのように応答し適応しているか、そして、その適応能力や生体応答が生物種間でどのように異なるかについては、これまでほとんどわかっていない。 モデル生物キイロショウジョウバエは、自然界では全世界の人家近くに生息し、発酵した多種類の果物を食性とする(広食性)。一方、その近縁種の中には、特定の地域に生息し、発酵した単一の植物のみを食性とする(狭食性)種も存在する。このような、食性が異なるショウジョウバエの近縁5種に着目し、遺伝子発現及び代謝産物の網羅的な比較解析を行うことで、異なる栄養バランス(タンパク質と炭水化物の比率)への適応能力と生体応答を比較した。 その結果、広食性のキイロショウジョウバエは、餌の炭水化物の比率に応じて遺伝子発現や代謝を制御する、TGF-b/Activin シグナル伝達経路を含む炭水化物応答制御機構が存在し、この機構の働きによって、異なる栄養バランスに柔軟に適応できることが明らかとなった。一方、狭食性のセイシェルショウジョウバエではこのような機構が機能しておらず、高炭水化物条件下では、遺伝子発現や代謝産物量が上昇し、成長できないことを見出した (Watanabe et al., Cell Reports, 2019)。今後、生物が獲得してきた様々な環境適応システムや種間・個体間の違いを理解する上で、このような比較解析が強力な手法となることが期待される。
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