研究課題/領域番号 |
17K15041
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西村 浩平 大阪大学, 生命機能研究科, 特任助教 (80582709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セントロメア / 4C法 / Auxin inducible degron |
研究実績の概要 |
遺伝情報を担う染色体の正確な分配は、細胞増殖に不可欠な現象であり、生命の基本原理とも言える。染色体分配の要となるキネトコア(動原体)はタンパク質の巨大複合体として染色体上のセントロメア DNA 上に形成される。一方、セントロメア領域は、分裂期のみならず間期の核内でも特殊な構と機能を有すると長く考えられてきたが、解析の困難さから間期のセントロメアの構造に関する知見は乏しい。本研究では、高精度ゲノム三次元構解析手法(4C法とHi-C法)に申請者らが独自に開発したタンパク質除去技術オーキシンデグロン法(AID法)を組み合わせることにより、脊椎動物の間期の核内におけるセントロメアに特異的なゲノム三次元構造の実体を明らかにし、この構造形成に関与する因子群を同定することを目的としている。以上の目的を遂行するため、Z染色体上にネオセントロメアを持つニワトリのDT40細胞において4C法によるセントロメア相互作用領域の解析を行った。 その結果、セントロメアの領域が間期の核内において、ヘテロクロマチン領域、他のセントロメア領域と強く相互作用していることが明らかとなった。この相互作用を担っているセントロメア蛋白質を同定するために、条件特異的なタンパク質ノックダウン系であるオーキシンデグロン法を用いるようと考えた。従来の方法ではノックダウン株の作成に数ヶ月の時間を要していたが、Crispr/Cas9システムを用いることにより、一ヶ月でノックダウン株を作成できるようになった。この手法を用いてセントロメアタンパク質であるCENP-CとCENP-Hの条件特異的な破壊を行い、セントロメアとヘテロクロマチンとの結合にはCENP-CよりもCENP-Hが関わることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、高精度ゲノム三次元構解析手法(4C法とHi-C法)に申請者らが独自に開発したタンパク質除去技術オーキシンデグロン法(AID法)を組み合わせることにより、脊椎動物の間期の核内におけるセントロメアに特異的なゲノム三次元構造の実体を明らかにし、この構造形成に関与する因子群を同定することを目的としている。この目標のために4C法を用いて間期核内におけるセントロメアの構造を解析した。解析に際してはネオセントロメア保持株を用いることで、同一DNA配列でセントロメアになっているときとなっていないときを比較することにより、セントロメア特異的な構造を抽出することに成功した。またオーキシンデグロン法においては改良を加え、従来は数ヶ月を要した標的とするタンパク質のノックダウン株を一ヶ月以内に作成することができるようになった。その為、研究計画を前倒しし、セントロメアの構成因子をノックダウンした際に4C法によって検出されたセントロメア特異的な相互作用がどのように変化するかの解析を行った。現在のところCENP-CとCENP-Hのノックダウン細胞において実験結果を得られており、CENP-Cのノックダウンにおいてはセントロメアとヘテロクロマチン領域との相互作用に変化が見られないものの、CENP-Hのノックダウン細胞においてはセントロメアとヘテロクロマチン領域との相互作用が弱くなるといった結果が得られている。以上の理由から研究計画は当初の計画よりも順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではCENP-HとCENP-Cのオーキシンデグロン株を用いた解析によって、CENP-Hがセントロメア領域とヘテロクロマチン領域との相互作用に重要は役割をはたすことを見出した。今後はセントロメア特異的ヌクレオソームを構成するCENP-Aなどの他のセントロメアタンパク質についてもオーキシンデグロン株を作成し、これらの因子をノックダウンした際にセントロメア特異的なゲノム相互作用がどのように変化するかを解析していきたい。また4C法はゲノムの単一領域からその他のゲノム領域への相互作用を検出するものである。セントロメアの因子を破壊したときにセントロメア以外のゲノム領域へも影響が出るのではないかと考えられ、ゲノム全体の相互作用を解析しようと考えている。この目的のためにはゲノム全体における相互作用解析が必要となる。その為、HiC法を用いて核内における全ゲノム領域の相互作用解析を行う予定である。前述したセントロメアタンパク質のノックダウン細胞とHiC法による全ゲノム領域の相互作用解析はセントロメア以外のタンパク質、例えばコヒーシンやコンデンシンなどにも用いることが可能であり、今後、核内のゲノム構造解析の重要なツールとなると考えている。さらに今回使用した細胞はニワトリの細胞であるが、ヒトの細胞においても同様の研究をおこないたい。しかしながら、ヒトの細胞に於いてはセントロメアは高度なリピート構造を保持しており、ゲノムワイドな解析を行うことが困難である。その為ヒトの細胞においてリピート構造を持たないセントロメア(ネオセントロメアもしくは人工染色体など)の構築にチャレンジしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は4C法に関わる実験の消耗品(各種酵素、PCRキットなど)の購入を行ったが、当初予定していた次世代シークエンスのための費用を共同研究先に負担していただいたため、その分の物品購入費が予定額よりも減少した。本年度はより多くの次世代シークエンシングを行うため、持ち越した費用を使用したい。また本年度は昨年成果が出始めた本研究の成果発表を国内外を通じて行っていきたいと考えているため、旅費に関してもこちらで使用していきたい。
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