研究課題
赤芽球から赤血球に分化成熟する機構について不明な点は多く、赤芽球のタンパク質発現パターンの不均一性を解明する必要がある。本申請課題では申請者が独自に開発した油中液滴チャンバー法を基盤として、1 細胞プロテオミクスを構築することで、赤血球分化機構の解明に挑戦している。平成29年度にはまず、その技術開発を行った。1) タンパク質吸着ビーズの種類:ビーズの種類として、アミノ基、カルボキシル基、陽イオン交換、陰イオン交換ビーズを評価に使用した。pH9におけるタンパク質のビーズへの吸着量はアミノ基ビーズが最も多かった。ビーズを油中液滴に添加することで、1 ng(10細胞相当)のタンパク質を消化した場合回収率は約8倍に改善した。これはビーズを添加することで、微量タンパク質のプラスチック容器への吸着損失や油中への拡散損失を抑えられたためだと推察された。2) 可溶化剤の種類:微量タンパク質から高効率にタンパク質可溶化し消化酵素で断片化できる可溶化剤のカクテルをスクリーニングした。5種類の可溶化剤を用いて、すべての組合せ(32種類)について調製した。各可溶化剤におけるタンパク質の可溶化能および消化酵素の活性を測定し、8種類まで候補を絞った。1 ngのHEK細胞抽出タンパク質を消化試料に使用したところ、従来の溶液消化に比べて油中液滴法を用いることで、ペプチドの同定数は25.5倍に増加した。さらに、油中液滴法は100 ngのタンパク質にも効果が示され、ペプチド数は1.7倍に増加した。このことから油中液滴法は幅広い質量のサンプルにも適用できると期待される。平成30年度はこれらを組合わせて1細胞プロテオミクスを確立する。
2: おおむね順調に進展している
本申請課題中に明らかにする点は以下の5点である。1) 油中液滴への最適な1細胞導入法、2)回収率を改善するタンパク質吸着ビーズの種類、3) 前処理で使用する可溶化剤の最適化、4) LRFに制御されるタンパク質群、5) 1細胞プロテオミクスの検証。平成29年度は1細胞プロテオミクスの根幹となる、油中液滴法について最適化を行った。従来の溶液消化と比較して油中液滴を用いることで、10細胞相当のタンパク質を用いると回収率およびタンパク質の同定数は飛躍的に改善した。このことから、1細胞プロテオミクスの開発は順調に進んでいる。また、平成30年度には造血幹前駆細胞から赤芽球を分化誘導させる予定である。そのために、平成29年度には造血幹前駆細胞の培養方法を確立し、準備はできている。一方で、液滴への細胞導入は機械の準備が整っておらずまだ実施できていない。
平成29年度までに確立した1細胞プロテオミクスを強化するとともに、特許出願を行う。赤芽球は申請者がヒト造血幹前駆細胞から分化誘導して実験に用いる。その培養準備は整っている。赤芽球までの分化誘導が確認できたのち、本研究課題に用いる。また、将来的には1細胞プロテオミクスはパラレルに同時処理できる機器類が必要となるため、上記研究と並行して、それを開発できるコラボレーション相手を探す。
シングルセルソーターの利用ができなかったため、その分の試薬類と施設利用費が残ってしまったため。平成30年度はこれらの残額を、平成29年度に使用予定だった支出に対して利用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
Cancer Cell
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