本研究課題は肝細胞移植時にある特定の肝細胞のみが障害を受けた肝臓に生着するという仮説のもとに遂行する。特定の肝細胞はTbx3陽性・二倍体肝細胞と定め、この実験を進めるにあたってTbx3レポーターマウスの作製は必須であり、これまで最優先の実験内容として研究を進めてきた。前年度までにTbx3遺伝子領域へのVenus(もしくはtdTomato)のノックイン(KI)ES細胞株をCRISPR/Cas9システムを用いて12ライン取得に成功し、ブラストシストへのインジェクションによりキメラマウスの作製まで成功した。しかしながらキメラマウスからジャームライントランスミッションを経てヘテロマウスを得ることができなかった。使用していた2iL培地はES細胞の質を低下させるという報告が近年発表され、これがジャームライントランスミッション阻害の原因であることが十分考えられた。そこで、BL6Jマウス由来のES細胞をt2iL培地(MEK inhibitorを低濃度にしたもの)で新たにブラストシストから樹立し、このES細胞に対してCRISPR/Cas9システムを用いてTbx3-Venus KI ESクローンを作製した。ICRの8-cell胚にインジェクション後、キメラマウスが得られ、ジャームライントランスミッションを介してヘテロ型KIマウスを得ることに成功した。ヘテロ型マウスの肝臓におけるVenus陽性細胞の局在を調べた結果、中心静脈周囲の肝細胞で最も強く、徐々に蛍光強度が弱くなる、内在性Tbx3と同じZonation発現パターンが観察された。従って、極めて正確なTbx3レポーターマウスが作製できた。このレポーターマウスをベースとして、研究期間内に達成できなかった実験計画を今後実行し、移植型培養幹細胞の開発を目指す。
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