研究課題/領域番号 |
17K15052
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
堀之内 貴明 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 研究員 (60610988)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大腸菌 / 実験室進化 / エピゲノム制御 / オミクス解析 |
研究実績の概要 |
生物システムは一般に、厳しい環境条件下においても表現型と遺伝子型を柔軟に変化させ、環境に適応することが可能である。しかしながら、適応進化のプロセスにおいて表現型と遺伝子型とが具体的にどのようにからみ合いながら変化し、環境への適応がもたらされるかについては不明な点が多い。こうした適応進化過程において、ゲノム遺伝子配列の変化を伴わないエピジェネティクス機構が重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究ではエピジェネティクス機構に関わると予想される遺伝子群(核様体結合タンパク質;NAPs)の破壊によって適応進化過程にどのような影響が生じるのかを全ゲノム変異解析・トランスクリプトーム解析・ChIP-seq解析といった網羅的手法により詳細に解析することで、エピゲノム状態・発現状態のゲノムワイドな定量を行い、その分子基盤を明らかにすることを目指す。 平成29年度は大腸菌の既知のNAPsをそれぞれ欠損させた14株を、作用機序の異なる5種の抗生物質存在下における実験室進化に供し、欠損すると親株と比べ顕著に薬剤耐性化が阻害されるようなNAPsの同定を行った。NAPs非欠損株を薬剤環境下で進化させた株の全ゲノム変異解析を実施し、同定した変異をゲノム編集により親株に全て導入することにより、進化株とゲノム配列は同等である再構築株を創出した。これらの株の差分を解析することによりエピゲノム状態の変化に起因する表現型変化を定量することを試みた。 また、大腸菌一遺伝子破壊株ライブラリ(Keio collection)を用い、転写因子の欠損株約170株を抗生物質存在下における実験室進化に供し、薬剤耐性化が阻害されるような転写因子をスクリーニングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全ゲノム変異解析により、NAPs非欠損株を薬剤環境下で進化させた株の全ゲノム変異解析(Illumina MiSeqを使用)を実施し、薬剤耐性化の際に生じた変異を同定した。これらの変異をゲノム編集により親株に全て導入することにより、進化株とゲノム配列が同等である再構築株を創出することに成功した。これらの株の差分解析によりエピゲノム状態の変化に起因する表現型変化を定量することが可能である。 また、この変異を薬剤耐性化が阻害されるようなNAP欠損株に導入したところ、薬剤耐性能が賦与されることが明らかとなった。このことから、このNAP欠損株は何らかのメカニズムにより、薬剤耐性化に有効な遺伝子変異を獲得できなくなっていることが示唆された。 また、平成30年度に実施する予定であった一遺伝子破壊株ライブラリ(Keio collection)を用いた大規模なスクリーニングを前倒しして行い、欠損すると薬剤耐性化が阻害されるような複数の転写因子をスクリーニングすることに成功しており、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き進化株と再構築株の差分を解析することにより、エピゲノム状態の変化に起因する表現型変化を定量する。トランスクリプトーム解析による転写状態の変化、ChIP-seq解析などによるエピゲノム状態の変化の解析を行う。また一遺伝子破壊株ライブラリを用いたスクリーニングにより、どのような遺伝子を破壊すると薬剤耐性化が阻害されるのかを解析する。これらの結果からエピゲノム状態の変化を引き起こす因子を同定し、その分子基盤の解明を試みる。
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