研究課題/領域番号 |
17K15055
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 摩耶子 京都大学, 野生動物研究センター, 特別研究員(RPD) (00794504)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 卵巣 / 移植 / 卵子 / 卵胞 |
研究実績の概要 |
本研究は希少動物の保全を目的とした生殖介助技術の開発をを目的とし、野生肉食動物のモデルとしてイヌとネコを用いて、免疫不全ラットへの卵巣組織の移植による原始卵胞の発育誘導法の確立を目指して取り組んできた。 昨年度は提携する動物病院からイヌの卵巣を提供してもらい、免疫不全ラットへの皮下への移植実験を実施した。その際、研究計画の通り、血管新生を促進する成長因子を利用するとともに、移植組織の定着を促す足場となりうるマトリゲルを用いて、卵巣組織の移植を行った。また、移植組織の回収前には卵胞刺激ホルモンの腹腔内投与による卵胞発育誘起も試みた。さらに、イヌの卵巣組織の凍結保存の研究が順調なことから、新鮮な卵巣だけではなく、凍結組織の移植実験も実施した。その結果、凍結条件によって移植後の卵巣組織内の状態に大きな差が生じた。緩慢凍結法で凍結した卵巣組織は移植後5週目には形態的に維持された卵子が観察できなかったのに対し、ガラス化凍結法を行った卵巣組織は9週間の移植によって原始卵胞からより発育の進んだ二次卵胞への発育誘導に成功した。このことから、この移植法は移植した卵巣組織内で原始卵胞から二次卵胞にまで卵胞発育を指示できることを示すとともに、ガラス化凍結法によって卵胞発育能を保持した状態で卵巣組織を保存可能であることが分かった。現在、上記の研究成果について論文を執筆中である。 さらに、野生動物の卵巣組織の凍結保存を進めている。これまで7動物園から協力を得られ、合計で23件、16種の野生動物の卵巣を受け入れ、凍結保存・蓄積を行っている。今後、本研究によって卵胞発育を促す卵巣組織移植法が確立された折には、これらの野生動物の卵巣組織を用いて野生動物の未成熟卵胞の発育誘導を目指す予定である。 昨年度は以上の結果を二つの国内の学会・研究会、一つの国際シンポジウムで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、移植実験は新鮮な卵巣のみを用いることを想定していた。しかし、本研究とは別のイヌの卵巣組織の凍結保存の研究が順調なことから、凍結保存した卵巣組織も融解後に移植実験に供試し、良好な結果を得ることができた。このことから、凍結組織由来卵子による産仔作出の可能性が広がり、より野生動物への応用に向けて実践的な技術モデルを提示することができた。 当初予定していた免疫不全ラットの管理や手術補助、助言を仰ぐ、同じ京都大学の研究協力者の先生が遠方の他大学に移動になり、研究への助言等、協力関係は継続してもらえるものの、ラットの移植実験・管理の継続が危ぶまれた。しかし、移動される前に手術方法の確認を入念に行うとともに、同じ研究施設の別の先生・技術員の方の協力も得られ、移植実験を継続することができた。 また、昨年7月より出産・育児により研究を中断しているが、その間にも研究会での発表や講演、論文執筆を継続することで、研究を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在出産・育児のために中断している本研究は、本年度9月より再開予定である。昨年度実施したイヌの卵巣の凍結保存及び凍結融解後の卵巣組織の移植実験の結果は、現在論文を執筆中であり、研究再開までの投稿及び受理を目指す。 また、昨年度移植実験を実施した施設では、研究協力者の先生から引き継いでもらった先生・技術員の方も移動されてしまったため、その施設での免疫不全ラットを用いた研究継続は困難になった。そのため、現在別の研究施設の研究者と共同研究の相談を開始しており、移植組織のレシピエントが免疫不全ラットから免疫不全マウスに変更になる可能性はあるものの、研究継続できる見込みである。 現在の移植手法では、原始卵胞から二次卵胞への発育は見られたが、移植後卵巣組織内の卵胞数の低下がみられ、二次卵胞にまで発育した卵胞の数も少なかった。今後はレシピエント動物体内でより効率的に卵胞を維持し、二次卵胞、さらに胞状卵胞にまで発育する卵巣組織移植法の確立を目指す。具体的には、レシピエント動物の内因性生殖ホルモンによる移植卵巣組織内の卵胞発育へ与える影響を調べるため、レシピエント卵巣の有無による内因性生殖ホルモンの動態を酵素免疫測定法、及びウェスタンブロッティングによる分子生物学的手法によって解析する。 さらに、これまで行ってきたレシピエント動物への卵胞刺激ホルモンの腹腔内投与についても、段階的投与によって移植組織内の卵胞発育に与える影響を組織学的、分子学的に解析し、卵巣組織移植による卵胞発育法の確立を目指す。 また、本研究によってモデル動物を用いて卵胞発育を促す卵巣組織移植法を見いだせた際には、実際に野生動物への応用実験を想定している。そのため、引き続き野生動物が動物園等で死亡した際、または獣医学的理由により卵巣を切除した際には卵巣を受け入れ、凍結保存・蓄積を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度7月より出産・育児により研究を中断したため、次年度使用額が生じた。本年度は研究再開のためにレシピエント動物や管理設備の購入等、研究環境を新たに整える必要がある。そのため、培地や血清、増殖因子、解析用の試薬類等の消耗品や学会発表のための旅費、研究資料輸送費に加え、研究再開に関わる研究環境の整備費として、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金を使用する。
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