研究課題/領域番号 |
17K15059
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤 泰子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10623978)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / 抑制修飾 / DNAメチル化 / ヒストン修飾 / ヒストンバリアント |
研究実績の概要 |
真核生物は、遺伝子と潜在的に有害なトランスポゾンとの違いを正確に識別し、それぞれ異なるクロマチン修飾を付加して転写制御する。この識別は個体発生やゲノム維持に不可欠であるが、この識別が何に起因するのか、識別メカニズムは未解明である。 申請者は、ゲノムワイドに抑制修飾を消失するシロイヌナズナ抑制修飾酵素変異体に抑制修飾機構を遺伝学的に再導入すると、トランスポゾンのみが特異的に抑制修飾を回復することを明らかとした。従って抑制修飾の外にトランスポゾンと遺伝子を識別する情報の存在が示唆される。一方、一部の遺伝子様DNAメチル化パターンを示すトランスポゾン(以降GLT)は抑制修飾を回復しないため、GLTが何らかのトランスポゾン識別標識を失い遺伝子と誤識別されたと考えた。本研究では、この系を活用した遺伝学とエピゲノミクスにより、遺伝子とトランスポゾンの識別に必要なクロマチン修飾と、その制御機構の解明を目指している。抑制修飾変異体においてGLTが特異的に喪失する情報の網羅的な探索を進めるため、ChIP-seq法によりトランスポゾンに特異的に見られるヒストン修飾やヒストンバリアントの局在レベルを抑制修飾変異体と野生型間で比較し、GLTにおける局在が他トランスポゾンより有意に消失する修飾を探索した。結果、シロイヌナズナには4つのH2Aバリアントが存在するが、トランスポゾン領域に局在するH2A.Wと遺伝子領域に局在するH2A.Zが、それぞれトランスポゾンおよび遺伝子領域を標識している可能性が示唆された。実際、抑制修飾変異体においてGLT領域上からH2A.Wの局在が特異的に喪失し、H2A.Zの局在量が増加していた。得られたこれらトランスポゾンおよび遺伝子の識別標識の候補については、今後それらヒストンバリアント変異体などを用いて同様の解析を行い、GLTにおける抑制修飾回復への影響を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真核生物は、遺伝子と潜在的に有害なトランスポゾンとの違いを正確に識別し、それぞれ異なるクロマチン修飾を付加して転写制御するが、その識別メカニズムは未解明であった。本研究より、ヒストンバリアントがこの識別メカニズムに対し、重要な役割を担っている可能性が示唆された。これが正しければ、ゲノムのクロマチン修飾制御において非常に重要な知見となる。ヒストンバリアント変異が、実際にこの識別メカニズムに影響することを検証することが求められる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究より、遺伝子と潜在的に有害なトランスポゾンとの違いを識別メカニズムに、ヒストンバリアントが大切な役割を担っている可能性が示唆された。これを検証し成果を確実なものとするため、ヒストンバリアント変異が、実際にこの識別メカニズムに影響するか調べたい。具体的には、ヒストンバリアントおよび抑制修飾酵素の多重変異体を作成し、ヒストンバリアント変異体背景におけるGLTやその他トランスポゾンにおける抑制修飾回復パターン、遺伝子上修飾への影響を解析したいと考えている。また現在成果を投稿中であり、本年度中の掲載を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
より成果を確実なものとするため、ヒストンバリアント変異体背景での検証を計画している。変異体作成などに時間がかかるため、次年度に実験を行うこととなった。次年度に実験を行うための予算を次年度に計上した。
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