研究課題/領域番号 |
17K15065
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉田 和真 九州大学, 薬学研究院, 助教 (80715392)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DNA複製 / テロメア / ORC / TRF2 / 染色体安定性 |
研究実績の概要 |
真核生物のゲノム複製は、複製開始点制御タンパク質ORCの染色体結合に依存してpre-RC (pre-replication complex: 複製開始前複合体)が形成されることにより始まる。我々は、ORCとテロメア結合/保護因子TRF2が協調して、pre-RCをテロメアに形成する仕組みを解析してきた。本研究は、TRF2-ORCタンパク質の結合様式に焦点を当て、テロメアの複製開始制御機構および染色体安定性維持におけるその意義の解明を目的とする。 本年度は、我々のこれまでの結果 (Higa et al., BBA Mol. Cell Res. 1862, 191-201, 2017) に基づき、TRF2 のTRFHドメイン内でORC結合への関与が予想される複数のアミノ酸を置換した変異型タンパク質をいくつか作製した。それらの機能解析の結果、ORCリクルート活性を著しく欠損した変異型TRF2を得ることができた。この変異体では、テロメア保護に重要なホモ二量体の形成、シェルタリン因子Rap1との結合、および末端維持に関連する他のTRF2結合蛋白質 (RTEL1とApollo) との結合は妨げられていないことを確かめた。以上の結果から、ORC結合特異的な欠損を持つ機能分離型TRF2変異体 (ORCリクルートはできないがテロメア結合/保護能は保持するTRF2) の有力候補が作製できたと考えている。現在は、計画通り、変異体置換型ヒト培養細胞株の樹立を進めている。次年度には、本細胞株での表現型解析を行う。 また、TRF2変異体での解析を相補するために、ORC1側のTRF2結合に必要なドメインの決定にも取り組んだ。結合に必要十分な領域を既に186アミノ酸まで絞り込んでいる。今後、さらに絞り込み、TRF2-ORC相互作用の詳細を明らかにするとともに、ORC1の特異的欠損変異体を探索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの主な成果は、下記の4点である。当初の計画から前後した部分はあるが、概ね順調である。 (1) ORC との相互作用にのみ欠損がある特異的変異型TRF2タンパク質の探索を目的として、TRF2 TRFHドメインにおいてTRF1に保存されておらず、タンパク質表面にあるが二量体の接触面ではないアミノ酸をいくつかアラニンと置換した。その結果、ORCリクルート活性が著しく低下した変異型TRF2を得た。本研究では、変異型TRF2がORCリクルート以外の機能は保持することが重要である。そこで、ホモ二量体の形成や他のTRF2結合蛋白質との結合が妨げられていないことを免役沈降法等により確かめた。 (2) ORC結合特異的欠損型TRF2変異体置換細胞株の樹立を、複数種の細胞において進めた。HeLa細胞では、CRISPR/Cas9を用いて野生型遺伝子破壊ならびに変異遺伝子導入を行った。現在、得られた細胞クローンについて、変異の確認を進めている。また、HCT116細胞およびHFF2/T細胞では、CRISPR/Cas9あるいはレトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入により変異体安定発現細胞株を樹立した。これらについて、今後、内在性TRF2をRNAi法で抑制することにより変異体置換細胞を作製する予定である。 (3) ORC1側のTRF2結合に必要なドメインの解析に着手した。計画当初は、理想的TRF2変異体が得られない場合の回避策として位置付けていたが、ORC1側の特異的欠損型変異体の探索は、TRF2-ORC結合様式の解明に加え、TRF2変異体置換細胞の解析結果を相補することによって本研究の精度を高めうると考えている。 (4) 次年度の解析に必要となる「FISHと免疫染色によるテロメアダメージの検出系」を立ち上げた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、TRF2依存性ORCリクルート阻害のテロメア恒常性・染色体安定性への影響を調べる。具体的には、TRF2-ORC相互作用特異的欠損型TRF2(またはORC1)変異体の置換細胞株を樹立し、以下の視点から、細胞の表現型解析を行う。なお、ORC1変異体を用いる場合には、テロメア以外の複製開始に影響がないかどうかに留意する。(1) 樹立した細胞株において、ORC やpre-RCのクロマチン結合がテロメア特異的に抑制されているかを、ChIP-qPCR法で検証する。(2) テロメア複製効率の低下が、テロメアの染色体脆弱性を誘導することが知られている。そこで、間期およびM期テロメアにおけるDNA損傷(53BP1の集積等)を調べ、ORC結合阻害のテロメア染色体脆弱性への影響を検討する。(3) 複製ストレス存在下で、テロメアのpre-RCが予備の複製開始点として重要になる可能性を検討する。すなわち、変異体置換細胞株を複製阻害剤ヒドロキシウレア等で処理し、テロメア複製、DNA損傷、細胞周期進行や細胞増殖への影響を検討することで、複製ストレス感受性を調べる。 (4) サザンブロット法でテロメア長を解析し、テロメア長恒常性への影響を調べる (5) ORCリクルート抑制によるテロメアへの影響が、がん細胞株と正常細胞株において異なる可能性を検証する。そのために、それぞれで樹立した変異体置換細胞株の表現型を比較する。正常細胞とがん細胞の違いに基づいた新規がん治療法に結びつけば、非常に意義深いと考えている。
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