コンデンシンⅠは、染色体構築過程において中心的な役割を果たすタンパク質複合体である。我々はこれまでに、分裂期キナーゼCDK1 によるコンデンシンⅠのリン酸化が染色体再構成に必要かつ十分なタンパク質修飾であることを示してきた。しかし、コンデンシンⅠのどのサブユニットのどの部位が CDK1 によってリン酸化されるのか、そして個々のリン酸化反応がコンデンシンⅠの機能をどのように制御しているのかについて明らかにしていくことを目的としている。 本研究では、コンデンシンⅠサブユニット内にあるCDK1 リン酸化候補部位(SP / TP 部位)にアラニン変異を導入したホロ複合体を発現・精製した。そして、内在性コンデンシンを除いたカエル卵抽出液へこの変異型複合体を添加し、その変異体が引き起こす染色体形態の異常について観察を行った。このことに加えて、本研究では主にM期卵抽出液を用いて解析を進めてきたが、本年度ではCDK1活性のきわめて低い間期卵抽出液に組換えcyclin B1-CDK1複合体を添加する実験系も準備した。これにより、異なるcyclin B1-CDK1 活性の下でコンデンシンIが作り出す染色体形態の違いを観察することができるようになった。 本年度はさらに他の候補部位にも対象を広げ、脊椎動物間で保存された全てのSP / TP 部位を含む計20ヶ所の CDK1 リン酸化候補部位をアラニン変異に置換した組換えホロ複合体(20A 変異体)を作製し、その変異体が引き起こす染色体形態の異常について観察を行った。その結果、いずれの卵抽出液を用いた実験系においても野生型に比べ 20A 変異体を用いて形成された染色体では若干の形態異常が観察されたものの、依然として染色体構造の形成が見られた。このことから今回調べた候補部位以外のリン酸化も染色体形成に関与していることが示唆された。
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