カイコのリポホリンについて、前年度に引き続き電子顕微鏡による観察と単粒子構造解析を進めた。前年度は試料の溶液条件を中性条件から少し酸性側のpH6.5に変更することで、試料の分散性が均一になることを見出した。本年度はpH6.5の条件でクライオ電子顕微鏡を用いた撮像を行った。クライオ用のグリッド調製においては、試料濃度やグリッドの種類を検討し、十分な数の粒子数が氷に包埋された条件においてデータセットを収集した。単粒子構造解析の結果は、中性条件で撮像した場合から大きな変化はなく、分解能も改善しなかった。しかし二次元再構成の結果から、リポホリン粒子は2つの大きなドメインに区分することができ、片方は脂質を多く含むドメインで、もう片方は主にタンパク質によって構成されるドメインであることが示唆され、リポホリン粒子の外形や特徴に関して有用な情報が得られた。pH6.5の溶液条件の場合、クライオでの観察においても粒子の分散性は改善していたが、中性条件の場合に較べると粒子の方位が限定されており、三次元再構成まで進めることはできなかった。リポホリンのX線結晶構造解析に関しては、前年度までに得られていた結晶化条件を最適化し、データセットの収集に成功したが、構造解析の結果、リポホリンではなくカイコのstorage proteinであることが判明した。解析した構造は、既報のものと異なる部分も見つかったため、構造の精密化を進めている。 前年度に着手したカイコのLipid Transfer Particle(LTP)に関しては、クライオ電子顕微鏡での観察を行った。前年度にはLTPの形状が特徴的な頭部と柔軟性に富む尾部から構成されることをネガティブ染色像から見出していたため、本年度はクライオ電子顕微鏡を用いた観察を行なった。現在はデータセットの撮像に向けてクライオ条件の検討を行なっている。
|