研究課題/領域番号 |
17K15073
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
丹羽 達也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (50588530)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ショットガンプロテオミクス / 翻訳共役的フォールディング |
研究実績の概要 |
本研究は、タンパク質翻訳のリズムに変動を加えた際に起こると予想される翻訳速度の局所的な変化が新生タンパク質のフォールディングにどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的としている。現在、プロリン連続配列の翻訳を促進する因子であるEF-Pの欠損株および、大腸菌内でのコピー数が少ないtRNAをプラスミドで増幅させる系ともに準備が完了しており、ショットガンプロテオミクスを用いた定量解析(SWATH法)によって再現よく発現量が変化するもののリストを揃えることができている。 当初想定していたよりも多くのタンパク質について発現量の変化がみられたことにより、その一部について予備的に細胞内での発現量や再構築型無細胞タンパク質合成系でのフォールディング評価などを行ってみたところ、見つかった変化の多くはフォールディング自身というよりは転写制御によるものである可能性が示唆された。そのため今後は転写を網羅的に調べる実験系(mRNAマイクロアレイやmRNA seqなど)を行うことを検討するとともに、現在すでに準備を進めているプロテアーゼ欠損株の作成を急ぎ、「フォールディングの変化」に真に起因するであろうと思われる変化を絞り込んでいく。そして実際に翻訳速度変化がタンパク質フォールディングに影響を与えている実例を積み重ねて、それらを詳細に解析していくことで、翻訳共役的フォールディングについて一般的な理解を得ることにつなげていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の項でも触れた通り、基本的となる株の作成およびSWATH法を用いた定量プロテオミクスの実験系はほぼ整ったと言える。SWATH法による定量性の高さも改めて確認することができ、現状では1.5倍程度以上の発現量変動を有意な差として検出することに成功している。またその結果から変動が確認できた一部のタンパク質については予備的な実験によってフォールディング変化の評価まで行ってみたが、現状では実際にフォールディングが変化しているらしき兆候を見つけるまでには至っていない。プロテアーゼ欠損を重ねた株についてはまだ一部完成していないものがあるが、作成の目処はついているので、完成次第、定量プロテオミクスによる発現量変化を確認していく予定である。 また予備的な実験の結果、当初想定していたよりも多く、転写制御系由来の発現量変化が見られているらしいことが示唆されたため、上記のプロテアーゼ欠損株による実験を急ぐとともに、転写自身を網羅的に調べる実験系についても検討を行っている最中である。具体的にはmRNAマイクロアレイもしくは次世代シークエンサーを用いたmRNA seqについて検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況の項で触れた通り、準備としては着々と進んでいるが、「翻訳速度変化に起因するフォールディング変化」を見出すまでにはまだ至っていない。そのため、1)プロテアーゼ欠損株を用いた発現量変動の定量化、2)転写の網羅解析(mRNAマイクロアレイ、mRNA seqなど)、の2つを駆使して、翻訳速度変化に起因すると思われる発現量変化をしているものを網羅的に探索することを検討している。またそれと並行して、すでに発現量の変動が確認できているものについて、細胞内での強制発現系や無細胞タンパク質合成系などを利用した解析を引き続き行っていくつもりである。これらのアプローチによって真に見たい変化があるものを炙り出し、そのタンパク質をモデル系とした翻訳共役的なフォールディングの解析のための実験系を構築していきたい。最終的には最小の因子から成る再構築型無細胞タンパク質合成系を利用して、どのような条件(具体的には反応温度や特定の因子の濃度の変化、また分子混み合い効果の有無など)の下で翻訳共役的なフォールディングの影響が見えるかなどについて明らかにすることで、翻訳共役的フォールディングについて一般的な知見を得ることを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、次年度の研究計画として、多くの予算を必要とする可能性の高いmRNAマイクロアレイやmRNA seqなどを行うことを検討しているため、その予算を捻出するために今年度使用分の消耗品費を節約して賄うためである。尚、今年度分の消耗品費用を減額したことによる大きな影響が出ないよう注意しながら節約に努めたため、研究自体の遂行に問題は生じていない。
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