本研究は、タンパク質翻訳のリズムに変動を加えた際の翻訳速度の局所的な変化が、新生タンパク質の翻訳共役的なフォールディングにどのような影響を与えるかを明らかにすることを目指し、網羅解析を中心とした実験を行っている。平成29年度までに、ショットガンプロテオミクス解析によって翻訳因子EF-Pの遺伝子を欠損させた株および細胞内のtRNAの組成を変化させた株について、野生型と比べて細胞内での発現量が変化したタンパク質がいくつも存在することを確認してきた。 平成30年度には、タンパク質の翻訳リズムの変化をより直接的に調べることができるリボソームプロファイリング法を用いた解析を行った。その結果、当初の予想に反して細胞内のtRNAの組成を変化させた株では翻訳リズムの変化が非常に乏しいことが判明した。しかしながら並行して行ったリボソームタンパク質の変異株についての解析で一部のタンパク質の翻訳リズムが大きく変動している様子を観察することができたため、この株についてショットガンプロテオミクス解析をやり直しつつ、並行してリボソームプロファイリングのデータの詳細な解析を行い、フォールディングが変化している可能性があるタンパク質の探索を試みた。 残念ながら、現在までにわずかな種類のタンパク質しか候補に挙げることができず、またこれらについて、無細胞タンパク質合成系を用いた解析を行うための遺伝子の準備等を進めてきたが、実際に翻訳共役的なフォールディングについてきちんと評価するところまでには至っていない。しかし、リボソームプロファイリングのデータの精査を進めていくうちに、もっと多くのタンパク質で翻訳リズムの変化が起きている可能性が示唆されており、このまま解析等を進めていけば、実際に翻訳速度のリズムの変動に起因して翻訳共役的フォールディングが変化するタンパク質を見つけられる可能性は十分にあると考えている。
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