研究課題/領域番号 |
17K15074
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宗 正智 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (40746335)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アミロイド線維 / β2ミクログロブリン / 固体NMR |
研究実績の概要 |
アミロイド線維は高分子複合体であったり、不均一性であることが原因で固体NMR信号の分散が悪い。特にβ2ミクログロブリン(β2m)はアミノ酸残基数も多く非常に不均一な線維であるため信号帰属が非常に困難である。そこで、今年度はNMR構造解析に耐えうる良好なスペクトルを得るためのサンプル作製の条件検討をおこなった。いくつかの溶液条件や、撹拌条件、あるいは線維継代条件などを検討し、実際に同位体ラベルを施したアミロイド線維のNMRサンプルを準備した。これらのサンプルのNMRスペクトルを比較することで、従来条件より格段に良好なスペクトルが得られる条件を探し出し、様々な同位体ラベルサンプルを作成するための基盤となる複数のサンプルを再現性良く作ることが可能となった。そこで、信号帰属に必要な種々の同位体ラベルサンプルや、距離制限情報を取得するための同位体サンプルを作成した。また、最近の世界的なアミロイド線維構造解析の進捗状況は試験管内でアミロイド線維ができやすい条件で作製したサンプルから、より生体条件に即した、患者体内からの試料をもとに作製したサンプルが用いられるようになってきている。そのため、本研究でもより生理条件に近いサンプルの構造解析を目的として、生体サンプルからNMRサンプルを増幅させることを試みた。 立体構造計算をする上で重要となる分子間距離情報を分子内距離情報と分けて取得するための方法に分子間NHHC測定がある。より確実に分子間のみの情報を得るために本研究では13C同位体ラベルβ2mと2H,15N同位体ラベルβ2mの混合線維を用いる。今年度はこれら2種の蛋白質の発現と精製をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では研究開始後早い時期に信号帰属のための様々なスペクトルの測定を行うことができる予定であったが、予想以上にスペクトルの質が悪かったために、サンプル作成条件の検討を再度行った。さらに、近年のアミロイド線維構造解析の世界情勢が生体試料を用いたものに移行しつつあることから、この研究にもそれを取り入れる重要性を確認し、試料調製を新たに試みた。そのため、これらの実験に8か月ほど要したため、研究の進捗がやや遅れている。また、確度の高い選択アミノ酸ラベルサンプルを作成するための無細胞合成を試みたが、NMR測定に見合うだけのサンプル量が合成できなかった。そのため、この方法による劇的な研究の進展は期待できない結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では信号帰属に必要な様々なNMR測定をフル13C, 15Nラベル蛋白質とグリセロールによる部分的13Cラベル蛋白質を用いておこなう。さらに、2H, 13C, 15Nラベルを用いた高速MASによって分解能を向上させる。さらに、測定したスペクトルから得られる情報を精査したうえで追加で必要なアミノ酸選択ラベル蛋白質を発現・精製し、ほぼ全てのアミノ酸残基の信号帰属をおこなう。信号帰属には複数のコンピューター帰属方も組み合わせて効率的かつ精度の高い信号帰属をおこなう。 一連の信号帰属に加えて、距離制限情報の取得も同時に進めていく。非同位体ラベル蛋白質と同位体ラベル蛋白質の混合線維を作製し、分子内のみのNMR信号の取得をする。また、2H, 15Nラベル蛋白質と13Cラベル蛋白質の混合線維を作製し、分子間のみのNMR信号を取得する。さらに、スピンラベル法や電子顕微鏡による構造情報を加えることで距離制限情報を増やす。これらの様々な距離制限により、構造計算をおこない、β2ミクログロブリンのアミロイド線維構造モデルを発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初研究計画にはなかったサンプル条件検討を複数おこなった。そのためNMR管が追加で必要となり、年度内に購入する予定であったが、納期が間に合わず、次年度初旬の納品となった。そのため次年度使用額が生じた。
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