研究実績の概要 |
アミロイド線維は不均一な超分子複合体であり、固体NMR信号の分散が悪い。特に本研究の対象であるβ2ミクログロブリン(β2m)はアミノ酸残基数も多く非常に不均一な線維であるため信号帰属が非常に困難である。構造解析に耐えうる良好なスペクトルを得るためには構造的に均一なアミロイド線維試料の作製が不可欠であり、初年度はスペクトルの向上を目指した試料調製を集中しておこなった。その結果非常に良好なスペクトルを再現よく得られることが可能となり、最終年度ではアミロイド線維コア領域の8割以上の信号帰属を達成した。立体構造計算をする上で重要となる分子間距離情報を分子内距離情報と分けて取得するために、13C同位体ラベルβ2mと2H,15N同位体ラベルβ2mの混合線維を用いた分子間NHHC測定をおこない、距離情報の取得をおこない、構造計算をおこなった。さらに、近年目まぐるしい発展を遂げているクライオ電子顕微鏡の測定もおこなった。それぞれの手法による解析から確からしい構造モデルの構築に近づきつつある。 また、最近の世界的なアミロイド線維構造解析の進捗状況は試験管内でアミロイド線維ができやすい条件で作製したサンプルから、より生体条件に即した、患者体内からの試料をもとに作製したサンプルが用いられるようになってきている。そのため、本研究でもより生理条件に近いサンプルの構造解析を目的として、生体サンプルからNMRサンプルを増幅させること計画し、実験準備と条件検討をおこなった。残念ながら研究課題期間中の構造モデルの発表までには至らなかったが、基礎となるデータの取得と解析はほぼできており、近いうちに生体条件に近いアミロイド線維の構造を詳細かつ正確にモデル構築し発表する予定である。
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