研究課題/領域番号 |
17K15076
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
大木 規央 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助手 (10791361)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光活性化アデニル酸シクラーぜ / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
本研究で、解明されたOaPAC光活性化アデニル酸シクラーゼ活性メカニズムの構造科学的解明を基盤として、さらに細胞内でのセカンドメッセンジャー光制御への応用展開において、色素置換によるOaPACの励起波長の改変を行う。光活性化アデニル酸シクラーゼによる複合的な光制御の実現に向け、分別的な複数波長の励起(マルチカラー化)を目指している。また、OaPACの酵素ドメイン改変によるcGMPの光産生酵素の創出を目指す。天然のOaPAC構造の活性機能はcAMP合成酵素であるが、OaPACの改変によりcGMP合成酵素へと創出し、光によるコントロール技術を実現する。そこで、アミノ酸の配列情報に構造情報を加味することで、最適な分子改変を行い、医療分野への適用に耐える、高性能で実用的な改変・光活性化グアニル酸シクラーゼを設計・作製し、光遺伝学への応用展開を目指す。 本年度では解明されたOaPACの構造情報をもとに、FMNまたは FADを保有するOaPACとRoF(Roseo-Flavin)に置換されたOaPAC-RoFの構造と比較したところF46とH70においてRoF-PACとの立体障害が生じていることで活性が阻害されている可能性が考えられた。以上のことから、アミノ酸の変異体を作製し、RoFの置換を行った上で活性の検討をおこなった。また、光活性メカニズムの詳細は知られていない。そのため、我々はOaPACの活性化状態における構造解析さらにはキネティクスを解析することによって、メカニズムの解明をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度までの研究において、 OaPAC-RoF試料が長波長505nmでcAMP合成活性を測定し、OaPACの励起波長による活性型である事を確認を行った。その結果、F46A, H70A は吸収極大が長波長にシフトしており、RoFに置換されていることが確認された。一方で F46A/H70Aは目的タンパク質の発現は確認できたが、タンパク質溶液の色は透明であることから、補因子との結合が外れたと考えられる。その結果、F46とH70は FMN分子の結合安定性に関与していると考えられる。また、H70A変異よりもF46A変異の方がRoFに置換されやすかったことから、H70はフラビンの結合に重要ではないかと考え、以後46番目の位置の変異を広く検討することとした。また、OaPACにRoseo-Flavinが置換されたOaPAC-RoFタンパク質を哺乳類培養細胞HEK293細胞へ導入し、光制御、生物発光による細胞内cAMPの定量計測を行う予定であった。しかし、構造情報を元にBLUFドメイン周辺のアミノ酸変異を作製したが、アデニル酸シクラーぜ活性を持つRoF-OaPACを作製することはできなかった。 また、OaPACの活性化状態における構造解析とキネティクス解析において、OaPACのメカニズム解明をおこなうことに成功した。OaPACの結晶においては分光学的な手法により405nmの波長を照射することにより、約20秒で励起し飽和することが明らかとなり、その構造をlight状態の構造とした。Dark状態とLight状態の構造を比較した結果、BLUFドメインにおいてはα1とα2ヘリックスがフラビン分子を巻き込むようにして構造変化をしていることが明らかとなった。そしてACドメインにおいてはα5, 7, 8, 11ヘリックスにおいて外側に開く向きを示し、二分子間内で外側に開く向きをしていることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、変異体作製においてFMNとRoFの構造類似性を基に構造から変異体を作成したがいずれの変異においても活性を示さず、FMNとRoFでは電子伝達が異なるためにアデニル酸シクラーゼ活性を持たなかったのではないかと考えられる。今後、他のフラビンであるRoFMNまたはRoFADを用いることでOaPACの励起波長改変を目指す。 また、バイオインフォマティクスの手法を用いてグアニル酸シクラーゼ活性をもつOaPACの作製を試み、さらにはHEK細胞での発現を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質の精製に用いる樹脂、消耗品およびサンプルに添加するフラビン試料などに費用を計上していた。平成30年度の使用予算としては引き続きタンパク質の発現精製、消耗品に限り、次年度に持ち越すことになった。 今後の使用計画としては、研究計画が多少の遅れは生じているものの、計画の流れとしては変更していないため、繰り越した予算は当初の予定通りの用途で平成30年度に使用する計画である。具体的には精製用のカラム樹脂や消耗品、フラビン試薬、結晶化試薬、X線照射実験に用いる機器などである。また、今後の研究計画を遂行する上で、HEK細胞やベクターなども予算を必要とする過程にあり、繰り越した予算は平成30年度に計上された予算と合わせて、これらに使用していく予定である。
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