本研究では、グラム陽性高GC細菌のヘム取り込み系Hta-Hmuシステムに注目して、ヘムリレー輸送の分子機構の解明を目指している。本システムを構成するタンパク質HtaAとHtaB、HmuTが過渡的な複合体を形成することによって、細胞外における高速なヘム輸送が行われると考えられる。過渡的複合体の結晶構造を捉えるために、ヘムの受け手となる非結合状態のタンパク質が必要であると考え、初年度はヘム結合能が低下した変異タンパク質の作成と結晶化を行った。HtaAのC末端ドメインの変異型タンパク質 (以下、H434A変異体) では、ドメインスワップ二量体を形成していた。この二量体は我々が想定するヘムリレー輸送の過渡的複合体をミミックするような構造であった。 本年度は、得られたH434Aのドメインスワップ二量体結晶にヘムをソーキングすることで、ヘム輸送複合体を模したヘム結合型二量体の調製を試みたが、ヘムの挿入は見られなかった。さらに、ヘム輸送複合体構造を得るべく、Holo型タンパク質 (HtaAのN末端ドメインとC末端ドメイン) とApo型タンパク質 (HtaB) を等量ずつ混ぜて、結晶化条件のスクリーニングを行った。しかし、いずれの場合も結晶を得ることはできなかった。 ヘモグロビンからHtaAへのヘム輸送実験を行った。ヘモグロビンとHtaAでは、ヘム鉄の軸配位子となるアミノ酸が互いに異なるため、ソーレ帯の吸収を追跡することでヘムの輸送を捉えることができる。ヘモグロビンからHtaAへのヘム輸送反応を経時的に測定したが、系中のHtaAの多くがヘムを結合していないにも関わらず、反応は頭打ちした。溶液条件を変えても、この傾向に違いはなく、今後の課題としたい。
|