(1)平成29年度に、ストレス時の細胞内で生ずるpHの弱酸性化に伴い、p38はストレス応答における基質ATF2に対し高親和性となることを見出した。平成30年度は、pH依存性のメカニズムを証明するため、ATF2ドッキング配列に存在する5個のヒスチジン残基を、塩基性残基Lys+または親水性残基Glnに置換した変異体を複数作製し、p38との親和性解析を実施した。Lys+は弱酸性条件におけるHis+を、Glnは中性条件におけるHisをそれぞれ模倣する。この結果、ヒスチジン残基を欠失させることによりpH依存性が失われるとともに、5個のHis⇒Lys+/Gln置換の内、Lys+に置換する数が多い程、p38に対する親和性が高いことを見出した。このことより、His残基を介して環境pHを感知し、ドッキング配列上の電荷量を調節することにより、基質ATF2がストレス環境特異的に、p38により優先的なリン酸化を受ける機構を証明できた。 (2)p38の基質特異性に関わるp38の二重リン酸化について、Caシグナル下におけるカルモジュリン(CaM)の寄与を解析した。まず、生化学的解析より、CaM存在下では、上流のMKK6によるp38-pY⇒p38-pTpYの反応が効率化される結果、二重リン酸化が促進されることを見出した。そこで、p38-pYとMKK6、さらにはCaMの相互作用を溶液NMR法を用いて解析した。この結果、p38-1PYは、MKK6との複合体状態において、不活性・活性構造間の平衡状態にあることが明らかとなった。CaM存在下では、この平衡が不活性側へシフトした。活性構造はリン酸化されるべきThr残基が遮蔽されリン酸化されにくい構造であることを考慮すると、CaMはp38を不活性構造へ偏らせることでMKK6によるp38の二重リン酸化を効率化するものと考えられる。
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