小胞体ゴルジ体からなる初期分泌経路は、新規に合成された分泌タンパク質や膜タンパク質の立体構造形成の場である。ERp44は、ゴルジ体内腔において基質タンパク質を捕え、小胞体へ逆行輸送することで、初期分泌経路におけるタンパク質品質管理に関わる。これまで、ゴルジ体におけるpHの低下や亜鉛イオンとの結合が、ERp44の基質結合能を上昇させることが分かっていたが、ERp44の基質タンパク質の網羅的な同定はなされていなかった。そこで、基質タンパク質の網羅的同定を試み、以下の検討を行った。 ビオチン付加酵素を融合させたERp44コンストラクト(BioID2-ERp44)を用いることで、細胞中でERp44近傍に局在するタンパク質をビオチン化修飾したのちに、細胞からミクロソームを抽出した。得られたミクロソームをオプティプレップを用いた密度勾配遠心によって分離することで、小胞体画分、ゴルジ画分に分けることに成功した。それぞれの画分を溶解したのちに、ビオチン化されたタンパク質をストレプトアビジンビーズを用いて回収した。含まれるタンパク質はSDS-PAGEによって分離し、質量分析によって同定した。以上の解析を通じて、ERp44の新たな基質タンパク質候補を複数同定し、ERp44の生理機能として細胞外マトリクスの制御が示唆された。 また、ゴルジ体内腔に亜鉛イオンを輸送する亜鉛輸送体ファミリーを発現抑制すると、ERp44がゴルジ体に集積することを発見した。この表現型は、キレート剤処理による亜鉛枯渇条件と同様の表現型であると考察され、生体内においてERp44が亜鉛イオンを獲得するための分子機構の一端を見出すことに成功した。
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