本研究の目的はシグナルペプチド非依存的な小胞体へのタンパク質輸送機構の解明である。真核生物において、分泌経路で輸送される可溶性タンパク質はそのN 末端に小胞体シグナルペプチド(以下、シグナルペプチド)を有している。これまでシグナルペプチドは細胞質から小胞体への輸送に必須と考えられてきたが、申請者の出芽酵母遺伝子破壊株とシグナルペプチド削除型タンパク質を用いた研究により、シグナルペプチド非依存的な小胞体へのタンパク質輸送機構の存在が明らかになってきた。しかしながら、これまでの研究ではシグナルペプチドを削除した変異タンパク質を用いてきた。そこで、元々シグナルペプチド有さないにも関わらず小胞体へ輸送されるタンパク質を発見することで、本輸送機構の詳細を明らかにすることを目的とした。実験の結果、シグナルペプチドや膜貫通領域を持たないにも関わらずN 型糖鎖を持つタンパク質Rme1を同定した。この結果から、シグナルペプチド非依存的な小胞体へのタンパク質輸送は本来酵母に備わったものであると考えられる。また、Rme1がSec61トランスロコン依存的に輸送されることが分かった。 一方で、典型的なシグナルペプチドを持たない哺乳類のN 型糖タンパク質(PAI2、FGF16)を酵母に発現させた結果、これらのタンパク質にはN 型糖鎖修飾は見られなかった。この結果から、典型的なシグナルペプチドを持たないN 型糖タンパク質の輸送には多様性があると示唆された。
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