研究課題/領域番号 |
17K15090
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森瀬 譲二 京都大学, 医学研究科, 助教 (60755669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | AMPA型グルタミン酸受容体 / 一分子イメージング / N型糖鎖 |
研究実績の概要 |
神経細胞シナプス領域において速い興奮性伝達をもたらすAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)は、ホモまたはヘテロ四量体として機能する。シナプス領域での受容体数に従い伝達効率が変化することから、四量体への会合制御機構の解析が重要な課題となる。本研究では特にAMPARサブユニット(GluA1~4)上のN型糖鎖に着目、特徴的なN型糖鎖の機能についてAMPAR会合能の観点から高精度一分子イメージング法を用いて明らかにすることを目的としている。 本年度はまず、GluA1 上の高マンノース型糖鎖のGluA2 との会合における役割をGM1 の有無において人口脂質平面膜構築法を用いて明らかにすることを目指したが、その再構築法の立ち上げの進捗が悪い。そこで当初の計画における対応の通り、HEK293細胞CNIH-2安定発現株を用いる方針に切り替えた。GluA1をCNIH-2安定発現株に導入すると、一部糖鎖が高マンノース型糖鎖に維持されていることが確認できた。その条件においてGluA1のホモの会合時間を計測すると、野生型のHEK293細胞上と同程度であったことから、GluA1上の高マンノース型糖鎖はホモの会合に大きな影響を与えないことが分かった。また、GluA1のN401 位糖鎖の有無によるGluA2 とのヘテロ会合能の変化の解析に先立ち、α1-6フコース転移酵素(Fut8)欠損HEK293細胞を用いて、GluA1・GluA2のホモの会合時間を計測した。Fut8遺伝子欠損マウス脳ではヘテロ会合能が促進していることを2015年に報告したが、一分子観察条件では明らかとなっていなかった。そこでFut8欠損細胞にそれぞれ導入し一分子観察を行うと、共に野生株と比べて会合時間が有意に低下していた。このことから、糖鎖構造上の一部の変化がホモの会合能に影響を与え、ヘテロの会合を促進させる一連の証拠を掴んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体構想として、AMPARサブユニット(GluA1~4)のホモまたはヘテロの会合制御機構をN型糖鎖の観点から明らかにすることを目的としている。人口脂質平面膜構築法の立ち上げが悪い一方で、CNIH-2安定発現株上でGluA1が未成熟型糖鎖を有することを確認し、その細胞上でのGluA1のホモの会合能の解析に成功している。その系を元に当初の予定通り、次年度ではGluA2とのヘテロ会合能の解析を行っていく。また、GluA1N401位のN型糖鎖欠損体とGluA2とのヘテロ会合時間は明らかにできていないが、2色同時一分子観察により野生型GluA1とGluA2とのヘテロ二量体並びにヘテロ四量体の会合時間の計測を行った。結果、ホモに比べてそれぞれ有意に会合時間が長いことが分かった(ホモ二量体; ~200 ms, ホモ四量体; ~100 ms, ヘテロ二量体; ~350 ms, ホモ四量体; ~200 ms)。このようなコントロールの会合時間(あるいはそれに影響を与えうる拡散係数などの指標)は解析し終えており、つづいてGluA1N401欠損体で同計測を行うのみであり、このことから順調に進展していると考える。一方でコアフコースがGluA1のホモ会合能に重要であることが一分子イメージング法を用いて新たに明らかになったことは大きな進展であり、糖鎖がホモまたはヘテロの会合を調節する重要な証拠であると言える。 以上の結果を合わせ、本研究は概ね順調に計画が進行しているものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
GluA1N401欠損体とGluA2のヘテロ会合時間の計測にはまだ至っていないが、野生型の条件の計測は終えている。今後は、GluA1N401欠損体とGluA2の会合の観察と、GM1導入時における3者の会合変化を解析していく。加えて、GluA1上に未成熟型糖鎖を維持させたCNIH-2安定発現株において、GluA1とGluA2のヘテロ会合について観察していく。同時に、GM1導入におけるそれぞれの変化も解析する。以上より、特定の糖鎖付加部位に、糖鎖が無い、高マンノース型糖鎖が存在する、複合型糖鎖が存在する、の3 パターンでの会合能を解明し、高マンノース型糖鎖機能を明らかにする。また、GM1のような脂質ラフト成分の存在による会合能への影響も明らかにする。加えて、N 型糖鎖付加部位欠損変異体の初代海馬神経細胞への導入による神経細胞の形態的変化解析にあたり、使用するN63,249,257, 401 位変異体の各発現プラスミドは作製済みで、Venus タグ融合GAP43との共発現系も確立させている。このことから当初の予定通り、GluA1 会合能の神経細胞の可塑的変化の関与について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費については実験の効率化を図ったことと、GluA1 上の高マンノース型糖鎖のGluA2 との会合における役割の解析を主に次年度に行うこととなったため、当初予定した金額より下回った。旅費については、研究協力者である鈴木健一グループ(現在、岐阜大学研究推進・社会連携機構生命の鎖統合研究センター所属)との研究打ち合わせ並びに研究方針を綿密に計画することで本学との移動回数を効率化させたため、予定した金額より下回った。 (使用計画) 次年度の使用額は当初予定していた研究計画の遂行に使用するとともに、研究成果の発表を積極的に行う。
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