本研究は膜内切断プロテアーゼに分類される大腸菌ロンボイドプロテアーゼGlpGの生理的切断基質候補として申請者が新たに見出したべん毛III型分泌装置構成因子である膜タンパク質FliOについて、GlpGによるFliOの基質認識・切断機構を明らかにすることでロンボイドプロテアーゼの普遍的性質の解明を目指すとともに、FliO切断の生理学的意義を明らかにするものであった。本年度は以下の研究成果を得た。(1)UV反応性アミノ酸pBPA導入変異体を用いた光架橋解析を行い、GlpGとFliO間の相互作用を示唆する架橋結果を得た。また、未同定のGlpGとの架橋産物も複数得ており、未知の切断基質や機能調節因子等、GlpGによる基質切断の分子機構解明の手掛かりとなることが期待される。(2)GlpG同様、膜内切断プロテアーゼに分類されるRsePのin vitro切断アッセイ系の構築を試みた。FRET蛍光ペプチドをデザイン・合成し、精製RsePタンパク質を用いて、RseP活性を定量的に評価するリアルタイム蛍光測定アッセイ系を確立した。これはGlpGによるFliO切断のkinetics解析の方法論的基盤となる。(3)大腸菌の膜タンパク質の品質管理に関わる膜プロテアーゼHtpXにおいて、定量的かつ簡便なin vivoプロテアーゼ活性解析系を確立した。この内容で学術雑誌FEBS Lettersに発表した。 本研究全体を通じて最も重要な成果は、GlpGによるFliO切断の解析に端を発した本研究過程において、FliOが切断だけでなく、全く新奇な膜外空間でのN末端アシル化修飾を受けることを発見したことである。このような翻訳後多段階プロセシングは世界にも報告例のない現象であり、FliO、ひいては細菌膜タンパク質の新奇な翻訳後機能調節機構の研究へと展開するための基盤となる成果を得たと確信する。
|