ADPリボシル化酵素Pierisinは、NAD+を利用して2本鎖DNA中のグアニンにADPリボースを付加する。その一方で、前年度に基質認識機構の解明に成功したADPリボシル化酵素ScARPは、単体のグアニンをADPリボシル化する。PierisinとScARPを比較することでADPリボシル化酵素の基質認識機構の理解を深めることを目的とし、本年度は、Pierisinと基質の複合体の結晶構造解析を目指した。 まず、Pierisinの大腸菌による発現と精製を行った。PierisinはN末端の触媒ドメイン、それに続く自己阻害ドメイン、C末端の受容体結合ドメインから構成される。そこでまず、N末端の触媒ドメインのみの発現を試みたが、その細胞毒性のため成功しなかった。活性に重要な2つのアミノ酸をアラニンに置換した変異体でさえ、その細胞毒性のため成功しなかった。そこで次に、触媒ドメインに続く自己阻害ドメインも含めて発現させた結果、大量発現に成功した。これを精製した後、プロテアーゼ処理により自己阻害ドメインを除去することで、Pierisinの触媒ドメインを取得した。取得したPierisinを用いてゲルシフトアッセイや複合体の結晶化を行ったが成功しなかった。これは、自己阻害ドメインを除去したPierisinが非常に凝集しやすいためであると考えられたため、塩濃度や還元剤、グリセロールなどの安定化剤を変えた様々な緩衝液の条件を試みたが、残念ながら改良することは出来なかった。今後はPierisinと類似のタンパク質で実験することを試みる。
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