本研究では、コンドロイチン硫酸(CS)の硫酸化異常による統合失調症様症状発現の分子メカニズムの解明を目的として、コンドロイチン6-O-硫酸基転移酵素-1(C6ST-1)のノックアウト(KO)マウスの解析を行った。CSは中枢神経系の主要な細胞外マトリクス成分であり、C6ST-1は、6位硫酸化CSの生合成を担う酵素である。6位硫酸化CSの欠損による統合失調症様症状の発現機構を明らかにするため、神経系、免疫系の2つの視点からC6ST-1 KOマウスの脳・神経系の詳細な表現型解析を行った。 2018年度は、胎仔期のストレスに対する脆弱性および、ミクログリアを介した脳内免疫応答へのC6ST-1欠損の影響の検討を中心に研究を行った。その結果、研究期間全体を通じて下記の知見を得た。 1) 精神疾患との関連が示唆されている各種抑制性神経細胞の数について、野生型マウスと比較したところ、C6ST-1 KOマウスでは成体になるとPV陽性細胞が特異的に減少していた。 2) 精神・認知障害において脳内炎症の関与が示唆されていることから、C6ST-1 KOマウスの脳におけるミクログリアの数を調べたところ、野生型マウスに比べむしろ減少傾向にあった。 3) 統合失調症の発症リスクを高める要因の一つとして、妊娠期の母体へのストレスが報告されていることから、妊娠中のストレス負荷により胎仔の脳におけるCSの硫酸化パターンが変化する可能性を検討したところ、ストレス負荷により発現が変化していた。また、野生型マウスとC6ST-1 KOマウスの胎仔期ストレスに対する脆弱性の比較も行った。
|