研究課題
昨年度に引き続き申請者が開発した膜蛋白質耐熱化置換体の理論的予測手法であるEntropy-based method(EBM)を用いて、元々の耐熱性が極めて高い膜蛋白質のサーモフィリックロドプシン(TR)(熱変性温度が92度)の耐熱化置換体の創出に取り組んだ。昨年度発見した耐熱化置換体は3度の熱変性温度の向上が確認された。本年度の研究では、さらに大幅な耐熱化を目指し、構造安定性への役割が小さいと考えられる側鎖のゆらぎの大きいアミノ酸残基に着目して置換することで効率的に耐熱化置換体を探索する手法を考案した。さらに昨年度は膜内領域のアミノ酸置換に着目していたが、ロドプシンは水中領域のアミノ酸側鎖も密に充填しており、この領域の置換も耐熱化に重要であると考え、EBMを水中領域の予測も可能に拡張した。この改良したEBMによりTRの耐熱化置換体を探索した結果、1置換で約5度の耐熱化置換体の獲得に成功した。さらに、発見した耐熱化置換体を組み合わせることで、2置換で約8度(熱変性温度はおよそ100度)の耐熱化置換体の創出にも成功した。熱変性温度は示差走査熱量測定により厳密に決定した。また、この置換体はプロトンポンプとしてのロドプシンの機能を保持していることも確認された。この極めて高い耐熱性を持つ置換体は光センサーチップ等の材料への応用が期待される。上記の研究以外にも、(1) 同じく極めて高い耐熱性を持つロドプシンR. xylanophilus rhodopsinがプロトンポンプの機能を保ちつつ高い耐熱性を獲得しているメカニズムの解明、(2)界面活性剤中の膜蛋白質が共溶媒で耐熱化できることの理論的な予見とその実証、にも成功した。(2)の研究では1mol/Lのスクロースの添加によりTRの耐熱性が2.6度向上した。1つの共溶媒により多くの膜蛋白質を耐熱化できることを示す重要な結果である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、TRを大幅に耐熱化する置換体の創出に成功した。このため予定通り順調に進展していると考えている。
今年度の研究により、TRの置換体の熱変性温度は2置換でおよそ100度に達した。耐熱化が確認されているTRの単置換はまだ複数存在している。また、改良したEBMによりさらに多くの耐熱化置換体を発見することも可能と考えている。来年度はそれらをさらに組み合わせることで、熱変性温度が100度を大きく超えるような置換体の創出に取り組む。
コロナの影響で購入予定だった計算機の納品の見通しが立たず、購入を延期したため予定していた使用額と異なった。補助事業期間の延長を行なったため、来年度でに購入に利用する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)
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