研究課題/領域番号 |
17K15100
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小森 智貴 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (50542289)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 1分子計測 / 蛍光計測 / ダイナミクス / 核酸結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究課題はゲノム編集タンパク質Cas9の構造変化ダイナミクスを1分子レベルで解明する事で、Cas9の核酸配列認識機構および切断機構などの動作機構の解明を目指すものである。これまでの本研究課題の遂行により、sgRNAの認識およびヌクレアーゼドメインによるDNA切断に伴うCas9内部の構造変化ダイナミクスを1分子FRET法を用いて解明する事に成功している。本研究成果によりCas9は同一の核酸結合状態に於いてもダイナミックに構造変化を繰り返す状態と静的に一定の構造状態を保つ状態を持つ事を明らかにした。また生化学計測に基づいたCas9切断計測結果と1分子FRET計測結果を対応づける事で、ダイナミックな構造変化を繰り返す状態がCas9が認識したDNAを切断する上で重要な状態である事が示唆された。これまでに精緻な構造解析によりCas9の動作機構の解明が行われてきたが、これまでにまさにDNA切断時の構造状態は解明されてこなかった。今回の研究成果は1分子FRETを用いる事で初めてDNA切断時の構造変化の一端を解明した成果であり非常に意義深い研究成果である。ゲノム編集タンパク質Cas9の切断活性の向上を目指す上でこれまでは主に切断活性を持つヌクレアーゼドメインに着目した改良が行われてきたが、本研究成果によりCas9の切断活性を向上させる上ではヌクレアーゼドメイン部位に加えて、Cas9全体の構造変化ダイナミクスに着目した改良が効率的なCas9デザインにつながる可能性が示唆された。現在は、これまでに得られた知見に基づいて当初に計画していたCas9に加えて、近年新たに着目され始めている別種のゲノム編集タンパク質に対しても同様のアプローチを用いた機能解明を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1分子FRET計測を用いたCas9構造変化ダイナミクス研究に関して当初の研究計画よりも早く研究成果を得る事に成功し、論文として発表が行われた(Osuka et al. EMBO J. 2018; 東京大学よりプレスリリース発表)。また本課題遂行に伴い構築された1分子FRET計測手法は論文として投稿がなされ、現在査読中である(Narita et al. J. Vis. Exp. in revision)。現在は、これまでに得られた計測結果に基づいたより発展的な研究に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに当初の研究予定よりも早くゲノム編集タンパク質Cas9の動作時の構造変化ダイナミクスが1分子レベルで明らかとなってきた。近年になり多様なゲノム編集タンパク質が発見されてきておりCas9とは異なる有用性も示されてきている。本課題で得られたCas9の分子機構に関する知見を、ゲノム編集タンパク質に広く一般化する事で、Cas9のみならず一般的なゲノム編集タンパク質の動作機構解明へと発展させる事を現在計画している。またCas9と類似した機構として、RNAを結合して相補的なRNAを切断するアルゴノートタンパク質の機能解明に於いても、本研究課題で得られた知見が活かされる可能性が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に計画していた海外学会における発表を取りやめた為に次年度使用額が生じた。本年度までの研究計画で得られた成果と近年の他のグループから報告されている知見を踏まえて、本研究計画を更に発展させて核酸結合タンパク質の動作メカニズムを分子レベルで解明する為に本繰越金を使用する。
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