研究課題/領域番号 |
17K15104
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関山 直孝 京都大学, 理学研究科, 助教 (50758810)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | RNA / 蛋白質 / 凝集体 |
研究実績の概要 |
本研究は、天然変性領域(IDP領域)を持つRNA結合蛋白質の自己組織化メカニズムを原子レベルで明らかにすることである。昨年度は、RNA結合蛋白質のFUS、TIA-1について試料調製および測定手法の開発に着手した。 試料調製については、His-SUMOタグを融合させたFUSおよびTIA-1、およびTIA-1のIDP領域であるPrion-like domain(PrLD)を、大腸菌発現系を用いてリコンビナント蛋白質として発現させ、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することに成功した。これらリコンビナント蛋白質は中性付近の緩衝溶液中でdropletを形成し、温度により可逆的に溶解-凝集することを見出した。さらに、SUMO-TIA-1およびTIA-1 PrLDに関しては、ATP-Mgや1,6-hexanediolがdropletを溶解することを見出した。これらの条件を用いることで、溶解状態および凝集状態でのFUSおよびTIA-1分子の運動性や相互作用の解析を行った。 初めに、凝集状態における運動性を調べるために、トリプトファンの蛍光異方性解消測定を行った。蛋白質に含まれるトリプトファンの蛍光は、分子の運動性の違いによって異方性の解消度が異なることが知られている。そこで、溶解状態と凝集状態でのTIA-1 PrLDの蛍光異方性の解消度を測定したところ、溶解状態よりも凝集状態において分子の運動性が遅いことがわかった。 次に、凝集状態における分子間相互作用を解析するために、NMRによる水素-重水素交換法を行った。これは、重水緩衝溶液に存在する蛋白質では、アミド基の水素が重水素と交換することを利用し、蛋白質の表面に存在するアミノ酸を特定する手法である。その結果、凝集状態のTIA-1 PrLDには、溶媒から保護されている幾つかの残基が存在することがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、当初の計画通り、試料調製に重点を置いて実験を行ってきた。その結果、IDP領域を持つRNA結合蛋白質のFUSとTIA-1に関して、凝集-溶解を繰り返す可逆的な凝集体であるdropletを作成することに成功した。さらに、凝集状態におけるIDP領域の運動性や相互作用を解析する手法についても検討することができた。TIA-1に関しては、可逆的に溶解-凝集するdropletを形成する最小IDP領域の同定に成功し、NMRスペクトルの帰属も行った。今後は、NMRを用いることで残基レベルの相互作用解析を進めていく。 測定法の開発において、分子の運動性を評価するためトリプロファンの蛍光異方性解消測定を行ったが、トリプトファンは蛋白質全体に分布しているため、ドメインごとの運動性を評価することができなかった。そこで、部位特異的に蛍光異方性解消測定を行うため、FUSおよびTIA-1の各ドメインに蛍光ラベルを施した試料調製にも着手した。現在までに、内在性のシステインに、マレイミド基を持つ蛍光ラベルを化学結合させる方法を用いて、蛍光ラベル標識したSUMO-TIA-1の作成に成功している。蛍光ラベルSUMO-TIA-1を用いることで、溶解-凝集状態における様々な蛍光イメージング測定を行うことが可能になった。例えば、蛍光異方性イメージングを行うことで、凝集状態のdroplet内部の分子の運動性を定量的に測定することがわかった。さらに、TIA-1を異なる蛍光ラベルで標識することで、蛋白質間の距離情報を取得できるFRETイメージングが可能であることがわかった。これら蛍光イメージング法は当初の研究内容には含まれていなかったが、droplet内部とdroplet外部における明確な比較が可能になるため、分光学的手法と組み合わせることで凝集体内部の状態をより詳細に理解することができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度に開発した各種測定法を用いて、FUSおよびTIA-1の変異体の解析を行う。FUSやTIA-1の機能不全は神経変性疾患と関連があることが知られており、実際に、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)のゲノム解析より幾つかのアミノ酸変異が見つかっている。そこで、ALS変異体FUSおよびTIA-1を作成し、分子の運動性や相互作用がどのように変化するのかを解析する。 次に、リピート配列を持つRNAおよびペプチド蛋白質が、FUSおよびTIA-1のdropletに及ぼす影響ついても解析する。家族性の前頭側頭葉変性症(FTLD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてもっとも多い遺伝子変異として、C9orf72遺伝子に存在するGGGGCCという6塩基の配列が異常に延長する遺伝子変異がある。GGGGCCリピートの延長がひき起こす病態の分子機構として、異常延長をもつRNAが凝集体の核になるとするものと、GGGGCCリピート配列から翻訳されたジペプチドリピート蛋白質が凝集体形成を促進するものがあるが、詳細についてはわかっていない。そこで、FUSやTIA-1のdropletにGGGGCCリピートRNAやジペプチドリピート蛋白質を加えることで、droplet内部の運動性や相互作用がどのように変化するのかを調べる。 昨年度、新たに導入した蛍光イメージング手法は、より生体内に近い状態でのIDP領域の解析を行うため、細胞内蛋白質への応用を検討する。
|