細胞は常に外部からのストレスに晒されており、生体内の恒常性を保つために様々な防御機構を持つ。その一つにストレス顆粒がある。細胞が、熱ショックや低酸素などのストレスを感知すると、mRNAを保護・貯蔵するため「タンパク質-RNA高次凝集体」を形成する。これがストレス顆粒である。この凝集の駆動力として注目を集めているのが、天然変性領域(IDR: Intrinsically Disordered Region)の自己組織化である。IDRとは、2次構造など特定の立体構造を持たないアミノ酸領域のことで、ストレス顆粒に局在するRNA結合蛋白質に多く含まれている。最近、IDRを含むRNA結合蛋白質が、ある温度や溶液条件において、油滴のような相を形成すること(LLPS: Liquid-Liquid Phase Separation)、さらに時間経過とともにヒドロゲルを形成することが発見された。これらの発見からIDR同士の自己組織化こそがストレス顆粒形成の駆動力であると考えられたが、LLPS内で働く相互作用様式やヒドロゲルを形成する繊維構造の構築原理は不明であり、原子レベルの構造情報が不足していた。 本研究では、ストレス顆粒に局在するRNA結合タンパク質であるTIA-1に着目した。TIA-1はC末端にIDR領域を持ち、その領域はLLPSを起こすことがわかった。そこでこのIDR領域間の相互作用を調べるため、溶液中でのタンパク質の構造情報や相互作用を解析できる核磁気共鳴法(NMR)や蛍光分光法を用いて、TIA-1のIDR間の相互作用を解析した。その結果、芳香環を持つアミノ酸を介した相互作用が重要であることを見出した。以上のように本研究では、LLPSを形成するIDRの自己組織化メカニズムを原子レベルで明らかにした。
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