研究課題/領域番号 |
17K15109
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
塚本 寿夫 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (90579814)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 赤外分光 / 膜タンパク質 / GPCR |
研究実績の概要 |
2018年度は、哺乳類カリウムチャネルTWIK-1に対する解析から確立した、環境依存的なチャネルの構造変化を全反射赤外分光法を用いて解析する方法論を、他のカリウムチャネルやチャネル以外の膜タンパク質(受容体)に適用した。具体的には、ナトリウムイオン濃度依存的にチャネル特性が変化することが知られているKir3.2に対して、溶液中のイオンをカリウムからナトリウムに置換した際の赤外吸収スペクトル変化を測定した。その結果、Kir3.2とTWIK-1の間で類似しているスペクトル変化と、異なる変化を観察した。今後、変異体など用いて吸収バンドの同定を進めることで、Kir3.2に特異的な構造変化を明らかにできると期待できる。 イオンチャネルの他にも、細胞外のシグナル分子を認識して、細胞内シグナル経路を駆動するGタンパク質共役受容体が、シグナル分子の結合に伴いどのような赤外スペクトル変化を示すのかについても解析を行った。具体的には、立体構造上の豊富なA2aアデノシン受容体について、アゴニストであるアデノシンの結合前後での赤外吸収変化を精度よく測定した。さらに、同位体標識したアデノシン分子を結合した際のスペクトル変化も測定・比較することで、リガンド結合に伴うスペクトル変化を、受容体由来の成分と受容体に結合したリガンド由来の成分に分離することに成功した。 TWIK-1については、細胞外環境の変化を細胞外ドメインを用いて感知していると考えられているが、具体的にどのような機構なのかは不明なため、部位特異的蛍光標識を細胞外ドメインに導入することを計画している。用いる蛍光標識bimaneはシステイン残基に結合するため、TWIK-1に元々存在するシステイン残基のうちいくつかを他のアミノ酸に置換し、チャネル全体の構造を変えずに、結合しうる蛍光標識の数を1/10程度まで減らすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度には、TWIK-1について赤外分光による環境依存的構造変化の解析を行い、2018年に原著論文として発表することができた。これを踏まえて、2018年度は同じ研究手法を、異なるタイプの哺乳類カリウムチャネルKir3.2や細胞外シグナル分子(アデノシン)を受容するGPCRに適用することにも成功した。このように、赤外分光を用いた解析が、イオンチャネルや他の膜タンパク質の環境依存的な構造変化を理解するために有効であることを示す結果を得られ、予定通りに研究を進めることができた。 一方で、TWIK-1の細胞外ドメインに蛍光標識を導入する計画については、当初予定していた研究計画の一部が遂行できなかったため、本研究費の事業期間を一年延長し、2019年度に、現在までに遂行できなかった研究計画を進めることを予定している。 上述したように、赤外分光解析については予定通り進捗し、蛍光標識を用いた解析については一部遅延があるため、合わせるとおおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」に記したように、2019年度には、TWIK-1において細胞外環境を感知する役割を果たすとされている細胞外ドメインに蛍光標識を導入し、イオン環境やpH環境を変えたときに、そのドメインがどのように構造変化するかを蛍光特性をもとに解析することに取り組む。得られた構造変化情報をもとに、環境に応じてチャネル特性を変えるTWIK-1が、どのように細胞外の環境を認識しているのかを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時の研究計画では2018年度に遂行予定であった研究計画の一部が、研究環境の変化とそれへの諸対応のため予定通り実行できなかった。その研究計画を2019年度に遂行するために、次年度使用額を利用して、2018年度に遂行予定であったが実際には遂行できなかった、蛍光標識を利用したTWIK-1チャネルの機能発現メカニズムの解析を実行する。
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