本研究では、ガン細胞などで見られる極端な染色体数変化に細胞が順応する仕組みを解明することを目的とした。 昨年度までの研究で、遺伝的背景が同一の1、2、4倍体HAP1細胞で分裂期中心体に局在する中心体周辺物質の構成因子の集積量が倍数性に応じて増加することを見出したため、本年度はこの倍数性依存的中心体増大の分子基盤を探った。RNAiを用いた遺伝子発現抑制によって、倍数性依存的な中心体増大に必要な因子を探索したところ、興味深いことに分裂期の紡錘体形成を制御する同一の分子経路を構成する複数の因子が中心体増大に関与することがわかった。これは染色体数変化が紡錘体形成関連のシグナル伝達経路の量的変化を介して中心体機能に影響を与える仕組みの存在を示唆している。また、これら因子のRNAiによる阻害は、二倍体細胞に比べ、四倍体細胞の分裂進行と増殖により大きな障害を引き起こすことがわかり、染色体数の増大に伴って、特定の紡錘体形成経路への細胞の依存度が増加していることも示唆された。上記の仕組みが染色体数変動に細胞が順応するための中心的役割を果たす分子的実体となっている可能性が示唆された。 さらに倍数性依存的な細胞制御の変化の仕組みを探るために1、2倍体HAP1の比較トランスクリプトーム解析を実施したところ、細胞周期を司るcyclin D2の発現が1倍体で有意に減少していることを見出した。ウェスタンブロット解析によりタンパク質レベルでも同様のcyclin D2発現差が生じていることを確認した。また、昨年度から継続実施した薬剤スクリーンによりCyclin D依存的キナーゼであるcdk4/6の阻害剤が1倍体細胞を選択的に増殖抑制することを見出した。これらの知見から倍数性依存的なcyclin Dの発現変動がcyclin D依存的経路の阻害に対する細胞の感受性を変化させる可能性があることがわかった。
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