研究課題/領域番号 |
17K15115
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
久保 智広 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (70778745)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鞭毛 / 繊毛 / チューブリン翻訳後修飾 / ポリグルタミン酸化修飾 / クラミドモナス / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
真核生物の鞭毛軸糸を構成するチューブリンはポリグルタミン酸化修飾を受ける。本研究ではこの修飾が鞭毛構築に果たす役割を解明するため、単細胞緑藻類クラミドモナスを解析に用い、以下の(1)-(3)を実施することを計画した。(1) 鞭毛構築異常を伴う新規ポリグルタミン酸化修飾欠損株ttll6の解析、(2) TTLL6によるB小管特異的修飾メカニズムの解明、(3) ポリグルタミン酸化修飾が生じる周辺微小管B小管のプロトフィラメントの決定。 (1)、(2)について 研究を始めて二か月ほど経った時点で、ttll6株の表現型がTTLL6変異とは関連付けられないことが発覚した。そのため、TTLL6の解析は中止し、ポリグルタミン酸化修飾に異常を持つ別の新規株(ssa11)の解析を行うことに方向転換した。ssa11は既存のポリグルタミン酸化修飾異常株tpg1と二重変異株にすると運動性と鞭毛構築速度に異常を持つ。また、ポリグルタミン酸化チューブリンを認識する新規の抗体を作製し、軸糸の修飾を調べたところ、tpg1株とは異なる修飾異常を持つことが明らかになった。 (3)について 抗体を用い、軸糸中の修飾の部位をクライオ電子顕微鏡で決定することを計画した。その目的のために、ポリグルタミン酸の側鎖に特異的なポリクローナル抗体を作製した。得られた抗体の特異性が予想を上回るほど高かったこともあり、クライオ電子顕微鏡を用いた解析の結果、ポリグルタミン酸化修飾の位置を正確に決定することに成功した。この結果を日本解剖学会、日本顕微鏡学会等の年会で発表し好評を得た。また、この内容をMolecular Biology of the Cell誌に発表した際には、注目すべき論文としてHighlighted Articleとして取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではチューブリンポリグルタミン酸化修飾が鞭毛構築に果たす役割を解明することを目的の一つとしたが、解析の過程で当初の予想とは反対にTTLL6の変異が鞭毛構築異常と関連付けられないことが発覚した。そのために、変異株の解析については方向転換し、新規の変異株ssa11を解析することにした。ssa11自体は顕著な表現型を持たないが、ポリグルタミン酸化修飾に異常を持つtpg1株と二重変異株にするとポリグルミン酸化修飾が大きく低下し、鞭毛の運動性と鞭毛の再生に影響を与えることが分かった。一方、SSA11遺伝子をssa11に導入することによって、ssa11のレスキューを行うことを目指しているが、まだ成功していない。おそらく、SSA11蛋白質の発現量の低さが原因と考えられる。 また、本研究では軸糸中のポリグルタミン酸化修飾の位置を三次元的に決定することを次の目標とした。そのために、ポリグルタミン酸の側鎖を抗原とした新規のポリクローナル抗体を作製した。多くの論文で使われているpolyE抗体という既存の抗体と同じ作製方法によるが、予想を上回る良質な抗体が出来た。Fab化処理済み抗体を化学固定していない軸糸に処理した後、シグナルを増強させ、その軸糸をクライオ電子顕微鏡によって観察した。その結果、特定のプロトフィラメントの微小管がポリグルタミン酸化修飾を受けていることが判明した。ポリグルタミン酸化の位置を三次元的に示したのは先例がなかったため、論文発表した際には注目すべき論文として取り上げられた。 以上、変異株の解析はやや遅れているという評価の一方で、修飾の位置決めに関しては予想を上回る進展があった。そのため総合的に考えて、「おおむね順調に進展している。」という評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
チューブリンポリグルタミン酸化修飾はTubulin tyrosine ligase-like (TTLL) protein familyに属する複数の酵素によって行われる。ポリグルタミン酸の側鎖を形成するために基質特異性および反応特異性が異なる酵素が協調して働いているが、機能が重複することも多い。また、相対的に存在量が多くないと考えられ、それぞれのTTLL遺伝子の発現が複雑な制御を受けている可能性もある。おそらくこのようなことが原因でSSA11遺伝子導入によるssa11変異株のレスキュー実験に難航しているが、今後の推進方策としては、これを解決することを最優先課題とする。具体的にはクラミドモナスで外来の遺伝子を発現するのに使われている強力なプロモーターを数種類比較検討する。こうした対策の結果、タグを付けたSSA11遺伝子の発現の確認に成功した場合、SSA11の相互作用相手の決定、SSA11の局在決定を行う。一方で、表現型解析として鞭毛運動性、鞭毛再生速度を調べ、これら異常となる原因を考察する。 クラミドモナスでは少なくとも10種類のTTLL遺伝子が存在し、これらそれぞれに対応する変異株の候補がChlamydomonas Library Project (CLiP)によって作られている。これまでにCLiPから複数のTTLLの変異株候補を得、表現型を観察したが(申請者の先行論文で記載したTTLL9の変異株は別として)、明瞭な表現型を示すものは存在しなかった。おそらくTTLL蛋白質の機能の重複性が原因と考えられる。解析が思うように進まない一方で、これだけ機能重複するものがあるということは、ポリグルタミン酸化修飾がそれだけ重要な役割を担っているに違いないと考えられる。従って、今後の指針は、これまでの変異株の表現型を見直し、二重変異株、三重変異株を作製し、細胞にどのような影響が出るかを解析する。
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