研究課題/領域番号 |
17K15117
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 遼介 大阪大学, 理学研究科, 助教 (10743114)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 繊毛 / クラミドモナス / ダイニン / 前集合 (pre-assembly) / MOT48 |
研究実績の概要 |
真核生物の運動性繊毛は、外界感知・生殖・個体運動・異物排出・恒常性維持などの多様な役割を担っている。運動性繊毛の波動運動は内部の巨大モータータンパク質複合体「繊毛ダイニン」により駆動される。繊毛ダイニンは繊毛内に運ばれる前に細胞質内において各種サブユニットから組み立て/折り畳まれることが現在までの研究で分かっており、このプロセスは『前集合(pre-assembly)』と呼ばれている。この繊毛ダイニン前集合機構に異常が生じると、高等動物では左右軸逆位・不妊・気管支炎・水頭症などを含む重篤な疾患(繊毛病)を引き起こすことが報告されている。しかしながら、その重要性にも関わらず、繊毛ダイニン前集合に関与するとして報告された分子(前集合因子)の数は限られており、前集合の詳しい分子機構も明らかになっていない。以前、申請者は、繊毛ダイニン前集合機構に関与する分子としてMOT48(IDA10p)を同定した。2本の運動性繊毛を持つ単細胞緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)において、MOT48の欠損は繊毛ダイニン前集合異常/繊毛運動異常を引き起こすが、MOT48の具体的な分子機能は未解明であり、如何に前集合に寄与するのかも不明であった。クラミドモナス繊毛ダイニン変異株スクリーニングの過程で、MOT48(IDA10p)分子を完全欠損していると考えられる変異株(ida10-2株)の単離に成功したので、本申請研究ではMOT48の繊毛ダイニン前集合機構における役割を明らかにするために、本株の詳細な解析を行った。その結果、ida10-2株では特定種類の繊毛ダイニンが野生型株に比べて大幅に減少することを見出した。同時に、分子タグを付加した野生型MOT48遺伝子を用いて、ida10-2株の表現型回復実験にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
始めに、MOT48が複数種類存在するクラミドモナス繊毛ダイニンのうち、どの分子種の前集合に関与するのかを決定する目的で、単離繊毛を用いた解析を行った。現在までに、クラミドモナスでは11種類(外腕ダイニン1種類・主要内腕ダイニン7種類・補助内腕ダイニン3種類)の繊毛ダイニンが存在することが明らかになっている。野生型株とida10-2株から各々繊毛を単離し、SDS-PAGEでタンパク質を展開した後、繊毛ダイニンを含んでいる高分子量バンドを切り出し、質量分析器を用いてスペクトラル・カウンティング法により各種繊毛ダイニンの存在量を半定量的に見積もった。結果として、興味深いことに、ida10-2株では主要内腕ダイニン3種類・補助内腕ダイニン2種類の存在量が野生型株に比べておおよそ30%以下にまで大幅に減少していることが明らかとなった。また、外腕ダイニンや他の主要内腕ダイニン3種類・補助内腕ダイニン1種類の存在量も野生型株に比べて中程度の減少が見られた。この結果は、MOT48が細胞質内において、これら複数の繊毛ダイニン種の前集合に関与していることを強く示唆する。次に、MOT48の細胞内相互作用因子同定・細胞内局在決定に利用する目的で、分子タグ付き外来性MOT48を発現するida10-2レスキュー株の作製を試みた。クラミドモナスで外来性遺伝子を発現させるのに用いられる汎用ベクターを改変し、野生型MOT48 cDNAのC末端に3×HAタグまたはmCherry-3×HAタグを連結した2種類のコンストラクトを作成し、ida10-2株を形質転換した。形質転換体を、運動性を指標にスクリーニングしたところ、外来性のMOT48-3×HAまたはMOT48-mCherry-3×HAを発現するレスキュー株を単離することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、分子タグ付き外来性MOT48を発現するレスキュー株を用いて、MOT48の細胞内相互作用因子同定と細胞内局在決定を行っていこうと考えている。MOT48相互作用因子同定の試みでは、MOT48を細胞から可溶性抽出可能な条件をほぼ確立済みであり、今後、免疫沈降法によりMOT48に結合する分子を探索する予定である。また、MOT48の細胞内局在決定の試みでは、蛍光分子タグを付加した外来性MOT48発現レスキュー株の直接蛍光観察より、緑藻特有の葉緑体由来の自家蛍光が強すぎて、MOT48-mCherry-3×HA由来の直接蛍光観察が非常に困難であることが明らかになった。今後は、間接蛍光抗体法に手法を代えてMOT48の細胞内局在の可視化に挑む予定である。これらの解析が終了した後には、in vitroにおいて繊毛ダイニンの各種サブユニットとMOT48分子を用いた前集合機構の部分的再現を試み、MOT48が関与する特定繊毛ダイニン種の前集合機構の包括的理解を目指したい。また、MOT48の哺乳類ホモログであると考えられる2種類のタンパク質(PIH1D1/PIH1D2)の分子機能についても研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、学会参加費用として旅費を使用しなかったこと、ならびにida10-2株分子タグ付きレスキュー株の作製に計画よりも消耗品費を必要としなかったことにより使用額合計が当初の申請額よりも少額となった。来年度以降は、ida10-2株繊毛軸糸の電子顕微鏡観察用品購入費や、ida10-2株原因遺伝子産物の相互作用因子決定に用いる生化学用品の購入費に、持ち越された助成金を使用する予定である。また、研究成果も適宜学会で活発に発表したいと考えている。
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