研究課題/領域番号 |
17K15120
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
宮田 暖 九州大学, 理学研究院, 助教 (10529093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リン脂質 / ミトコンドリア / Porin / 小胞体 / 脂質代謝 / 脂質輸送 |
研究実績の概要 |
前年度に、PS脱炭酸酵素Psd1依存的はPE合成経路に関与する小胞体膜タンパク質としてIce2を同定していた。本年度は、Ice2のさらなる機能解析を行った結果、1)Ice2は、ミトコンドリア内膜に局在するPsd1ではなく、小胞体に局在するPsd1によるPE合成に影響すること、2)加えてIce2は非発酵性環境下にある酵母において、ミトコンドリア局在性Psd1由来のPEの小胞体におけるPCへの変換と、酵母の非発酵性環境下における正常な生育に必要であること、を見出した。これらのことより、Ice2は、細胞内リン脂質の代謝・輸送やミトコンドリア機能維持に多面的に関与していることが明らかとなった。また、非常に興味深いことに、Ice2欠損酵母におけるリン脂質代謝異常や生育損傷は、ある転写因子の欠損により救済されることを見出した。 また、酵母において、ミトコンドリア膜間部に局在するUps1-Mdm35複合体はPAのミトコンドリア外膜-内膜間輸送を媒介し、CLの合成に大きく寄与している。前年度までに我々は、Ups1非依存的な新規CL合成経路を見出している。このCL合成経路は、ホスファチジルエタノールアミン量低下時に活性化し、Ups1依存的経路に替わり主要CL合成経路となる。また、このUps1非依存的CL合成経路に必須の因子として、Mdm31、Mdm32、Fmp30を見出している。さらに前年度、我々は、Porinタンパク質Por1が、Mdm35およびMdm31と結合することを見出した。Porinの発現抑制は、Ups1依存的経路、Ups1非依存的経路によるCL合成の著しい低下を引き起こすことを見出した。このことより、Porinは、Mdm35、Mdm35との結合を介してCL合成の制御に中心的な役割を果たしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年、出芽酵母においてPS脱炭酸酵素Psd1が、ミトコンドリア内膜だけでなく、小胞体にも局在しており、これが細胞内PE量維持に重要な役割を持っていることが示唆されていたが、小胞体局在Psd1によるPE合成制御機構は不明なままであった。これに関し我々は、小胞体膜タンパク質Ice2が、小胞体Psd1によるPE合成に必要であることを見出した。これは、小胞体局在Psd1によるPE合成制御機構とその生理的意義を解明する上で非常に重要な知見である。また、Ice2欠損酵母では、ミトコンドリアにおいて合成されたPEの小胞体におけるPCへの変換が著しく低下することも見出している。現在、Ice2がミトコンドリアから小胞体へのPE輸送に関与しているのではないかと予想しており、今後、この仮説を検証する予定である。また、ある転写因子の欠損がIce2の欠損による障害を救済することを見出している。この知見はIce2のリン脂質代謝における機能を明らかにする上で非常に重要である。今後、この転写因子の、リン脂質代謝調節に関する機能と、Ice2との関連を、トランスクリプトーム解析を含めて詳細に解析していく予定である。 さらに、ミトコンドリアにおけるCL合成に関与する因子であるMdm35、Mdm31が、ミトコンドリア外膜Porinと結合し、これがCL量維持に非常に重要であることを明らかにし、この成果を論文として発表した。我々は近年、ミトコンドリアにおけるCL合成は、Ups1-Mdm35複合体に依存する経路と、Mdm31、Mdm32、Fmp30に依存する経路が存在することを明らかにしてきたが、Por1は、これら両経路の調節に関与し、CL量維持に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。今後、Por1、Mdm35、Mdm31を介したCL合成制御機構とその生理的意義について、詳細な解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
Ice2の小胞体型Psd1によるPE合成に関する機能および、PEのミトコンドリア-小胞体間輸送に関する機能を解析、検証する。Ice2は、小胞体-細胞膜接触部位形成に関与していることが知られている。そこで、Ice2のリン脂質代謝に関する機能も、小胞体-細胞膜もしくは小胞体-ミトコンドリアのようなオルガネラ間膜接触部位を介したものであると想定し、小胞体-細胞膜人工繋留タンパク質Stapleや、小胞体-ミトコンドリア人工繋留タンパク質Chimeraなど人工オルガネラ間繋留タンパク質を用いた解析を行う。StapleやChimeraをIce2欠損酵母に導入し、リン脂質代謝障害が救済されるかを検証する。また、Ice2の欠損によるリン脂質代謝の障害は、ある転写因子の欠損によって救済された。よってIce2の機能は、この転写因子自身もしくは、この転写因子によって発現が制御される因子の機能と関連している可能性がある。そこで、Ice2欠損酵母において、この転写因子の活性をレポーターアッセイによって解析するとともに、トランスクリプトーム解析を行い、発現が変動する遺伝子群を同定する。 Por1は、Mdm35、Mdm31との結合を介して、Ups1依存的、Ups1非依存的CL合成に重要な役割を担っている。酵母は、通常、主にUps1依存的経路に依存してCLを合成しているが、Psd1の欠損などによりPE量が低下した際には、Ups1非依存的CL合成経路に切り替える。このようなCL合成経路の切り替えを、Por1とMdm35、Mdm31との結合が制御している可能性がある。そこで、PE量の変化に応じてこれら因子の結合に変化がないかを検証する。また、Por1とMdm35、Mdm31の結合が増加するPor1変異体を見出しており、このようなPor1変異体を発現する酵母において、CL合成の制御が影響を受けるかを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は、Porinがミトコンドリアリン脂質合成制御に関与するという研究成果の論文発表を優先し、当初予定していた研究を一部先送りにしたため、当初計上していた予算を使用しなかった。また、ミトコンドリア内外のPE代謝に関与する因子Ice2の研究が予想外の展開を見せ、今年度はトランスクリプトーム解析を行う必要が生じた。つまり、野生型、Ice2欠損酵母における各遺伝子の発現量の定量、比較を、外部受託により行う。前年度の繰越金を併せてこれに充てる予定である。
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