研究課題/領域番号 |
17K15129
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
秋山 智彦 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (20570691)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞分化 / 転写因子 / ATACシーケンス / シスエレメント |
研究実績の概要 |
転写因子導入によるヒトES細胞の分化誘導を制御するcis-elementをゲノムワイドに同定するためにATACシーケンス法を行った。本年度は、MYOD1導入によるES細胞-骨格筋変換におけるオープンクロマチンをATACシーケンス法によりゲノムワイドに解析することにより、これまで知られていない新たなcis-elementの同定に成功した。ヒトES細胞と誘導骨格筋に数万か所あるオープンクロマチン領域を比較し、それぞれに特異的に存在するオープンクロマチン領域を数千箇所同定した。これらのオープンクロマチン領域は、それぞれOCT4の結合、またはMYOD1の結合と関連があり、近傍遺伝子の活性化に関与することがわかった。興味深いことに誘導骨格筋に特異的に出現するオープンクロマチン領域の中で、MYOD1が結合する領域は3割程度であり、残りの大部分のオープンクロマチン領域は本来MYOD1の結合が確認されていない領域であった。さらに、このオープンクロマチン領域は成人由来の骨格筋におけるオープンクロマチン領域とも合致せず、ES細胞-骨格筋変換に特異的に生じるオープンクロマチン領域であることが明らかとなった。この特異的オープンクロマチン領域はintronやintergenic領域に存在し、しかも共通したモチーフ配列を含んでおり、その近傍遺伝子の発現制御に関わっていることが示された。以上の結果より、ES細胞-骨格筋変換においてはMYOD1結合オープンクロマチン領域以外に、ダイレクトな変換を起こすために特異的に出現するオープンクロマチン領域の存在が明らかとなった。これら2タイプのオープンクロマチン領域により制御される近傍遺伝子が協調して働くことによって、ダイレクトな細胞性質変換が可能になると考えられる。今後は同定された新規オープンクロマチン領域に結合する転写因子の解析および下流の遺伝子による分化制御について解析を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒトES細胞及び分化過程におけるATACシーケンス法の有用性が確認でき、MYOD1誘導骨格筋の新規シスエレメントの同定には成功した。しかし本来の計画ではHNF1による肝細胞分化も同様に行う予定であったができていないため、進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
骨格筋と同様に肝細胞を含めた複数の分化系の制御に関わるシスエレメントをATACシーケンス法により解析する。そのモチーフ解析からゲノムに結合する転写因子の種類を予測する。さらにRNAシーケンスにより、予測された転写因子が実際に発現しているのかを確かめ、候補因子を絞り込んだあとに転写因子ネットワークを構築する。転写因子ネットワークの中核を担う転写因子については抗体を作製して、ChIPシーケンスによりゲノム上の局在を確認する。また機能解析としてはCRISPR-Cas9によりノックアウトしたES細胞を作製し、分化誘導時にどのような影響が出るのかを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度末に購入予定の抗体試薬があったが、在庫がなく海外取り寄せのため納品に時間がかかり次年度に購入することにした。
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備考 |
秋山 智彦 慶應義塾大学医学部生命倫理セミナー 2018年「動的遺伝子ネットワークの多次元構造解析による高精度な細胞分化制御技術の開発」 秋山 智彦 熊本大学発生研セミナー(招待講演) 2017年「転写因子導入によるヒト多能性幹細胞の分化誘導の自在化を目指して」
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