研究課題/領域番号 |
17K15138
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
宮島 俊介 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (20727169)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 維管束組織 / 細胞間相互作用 / 発生 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
シロイヌナズナの根の維管束は、細胞分裂と細胞分化が同時に進行し、二原型の組織対称性をもつ放射維管束を形成する。このダイナミックな発生過程を制御する分子機構への理解は非常に乏しい。申請者は、維管束発生において、細胞分裂および組織の対称性を統合的に制御する因子としてGATA型転写因子HANABA-TARANU (HAN)を見出している。平成29年度の目標として、(1)HANの下流因子の探索、および(2)パルスレーザーを用いた細胞破壊実験系の構築を予定していた。 まず、HANの下流因子の同定に関しては、 han機能欠損体をもちいたトランスクリプトーム解析から、HAN機能活性の変化に伴って変動する遺伝子群の同定を行った。この時、転写抑制因子であるHANの機能欠損によって、発現が上昇する遺伝子群に着目した。その結果、維管束内で特定の領域で発現し、細胞分裂を誘導する新規転写因子を同定した。この転写因子は、HANによってその発現領域を限定されており、han機能欠損体における過剰細胞分裂を誘発する原因として考えられた。さらに、この転写因子の過剰発現は、維管束組織の細胞分裂を促進するとともに、シロイヌナズナ根の維管束の二原型の組織対象性をも変化させることを見出した。つまり、これらの結果から、GATA型HAN転写因子の下流として新規の機能因子の同定を達成した。 さらに、パルスレーザーを用いた細胞破壊実験の構築を行い、実際に細胞破壊実験を進めた。その結果から、放射維管束形成過程において、細胞同士が機械的な力による相互作用が生じており、維管束の対称性の構築に機能していることを見出しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の計画として、トランスクリプトーム解析からGATA型転写因子HANの下流因子の候補因子の同定と、平成30年度の計画において、それら因子の機能解析を計画していた。しかしながら、上記の通り、すでに、HAN遺伝子の下流で機能し、細胞分裂および組織対称性の両方に機能する新規転写因子を同定することに成功しており、当初の目標をはるかに超える成果が平成29年度に達成されたと考えられる。 また、当初から予定していたパルスレーザーを用いた細胞破壊実験から、維管束組織の構築過程において、細胞間に働く機械的な力が重要な機能を有することを見出しつつある。この知見は、これまで予想だにしなかった結果であり、研究の更なる発展の可能性を秘めていると考える。 以上の理由から、本課題の平成29年度における進捗は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新たに同定されたHAN下流の転写因子は、維管束組織において細胞分裂を誘導するが、HANによって発現領域が限定化される事が明らかになっている。今後は、この新規転写因子が如何にして細胞分裂を誘発するのか、また、その発現がどのように規定されるのかの2点に着目し、細胞分裂と組織対称性の構築における機能を明らかにする。 本課題の計画段階で予想されていなかった「細胞間の機械的な力」による組織対称性構築における機能については、新たに数理モデルを用いた理論生物学的なアプローチを行う予定であり、分子生物学的な手法では可視化することのできない細胞間に働く機械的な力を、計算機上で維管束発生をシミュレートする事から、その詳細を明らかにする。 これら分子遺伝学的手法および、理論生物学的な手法を統合することによって、維管束組織において、細胞分裂と細胞分化が同時に進行し、二原型の組織対称性を構築するというダイナミックな発生過程の制御機構の理解を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していたトランスクリプトーム解析において、より少ないデータセットで十分な実験結果を得ることができた。そのために平成30年度使用額が生じた。 しかしながら、現在、目的としていたHAN遺伝子の下流解析を達成し、さらに新たな転写因子を同定しており、この新たな転写因子に対しても、トランスクリプトーム解析を、新たに平成30年度で行うことを予定する。 また、平成30年度では、研究のスピードをさらに加速させるために、実験補助員の雇用時間の延長も予定している。
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