維管束植物において光合成産物の輸送路である篩部組織では、輸送管である篩要素細胞とそれに隣接する篩伴細胞は、機能的に密接な関係にある。本研究では、この機能的緊密性が細胞分化過程においてどの様に形成されるかを明らかにすることを目的としている。 本年度は、篩要素細胞と篩伴細胞の細胞分化における原形質連絡の重要性を明らかにする目的で、篩要素細胞と篩伴細胞の間の原形質連絡を誘導的に阻害する形質転換体に、細胞分化異常を観察するための遺伝子マーカーを導入した。また、篩部形成に異常がある突然変異体を篩要素特異的に相補する形質転換体を作成したところ、植物体全体の表現型が回復した。このことから篩要素の細胞分化が篩伴細胞の形成に関与する可能性が示唆された。また本年度は、篩要素細胞と篩伴細胞の間の原形質連絡の発達を詳細に観察するために、新規の分子マーカーを用いる予定であったが、残念ながら作成した分子マーカーは観察に適さなかった。しかし、3次元走査型電子顕微鏡イメージングにより、細胞分化過程において原形質連絡が発達することは明らかになっていることから、上述の研究内容と合わせ、篩要素細胞と篩伴細胞の機能的な緊密性の形成機構について論文を作成する。 また、本研究では当初、篩伴細胞で発現する遺伝子SEEN1が篩要素の核消失を制御するという仮説を立てていたが、本年度までの研究により、SEEN1は篩要素の核消失直前に一過的に発現すること、また篩要素特異的にSEEN1を発現させると篩要素の核消失が起こることから、SEEN1は細胞自律的に篩要素の最終分化を制御することが明らかとなった。本年度はseen1突然変異体に様々な篩要素の分子マーカーを導入したところ、篩要素の最終分化で起こる様々な事象が抑制されていることを明らかにした。これらの結果からSEEN1遺伝子の篩要素細胞分化における機能について論文を作成する。
|