研究実績の概要 |
最終年度には、当初の計画には無く平成30年度に新たに見いだしたヒメツリガネゴケANGUSTIFOLIA3(Physcomitrella patens AN3)(PpAN3)による、発生および代謝の統合メカニズムについて大きな進展があった。 まず、PpAN3の下流応答をRNA-seqにもとづくトランスクリプトーム解析で調べたところ、一次代謝に関わる遺伝子群にたしかに発現変動が検出された。そこで次にメタボローム分析を行い、PpAN3の代謝ターゲットの同定を試みた。そうしたところ、Ppan3変異株の茎葉体ではアルギニンの蓄積量が特異的かつ顕著に上昇していることが分かった。この結果を受けて、ヒメツリガネゴケ野生株をアルギニン含有培地で培養したところ、Ppan3変異株でみられた茎葉体の発生異常や転写プロファイルの変化を再現することができた。 興味深いことに、Ppan3変異株ではアルギニン代謝に直接関わる酵素遺伝子などには発現量の変化が見られない。したがって、PpAN3の下流応答で機能する代謝経路が、未知のつながりを経てアルギニン代謝に大きな影響を与えていると考えられる。このような成果は、発生と代謝のつながりを理解するという本研究の目的達成に寄与するものである。 そこで、シロイヌナズナおよびヒメツリガネゴケにおいて各々のAN3を交換する実験や細胞間移動能を定量的に比較する実験を行い、分子機能についての検討も重ねたうえで、現在は論文として投稿しているところである(Kawade et al., submitted)。
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