昨年度は、動物の筋肉組織切片から徳安法を利用した高速スキャニング型原子間力顕微鏡(High speed scanning atomic force microscope; 以下高速AFMと略す)用のサンプル作製法、そして高速AFMによる観察手法を確立することができた。本事業の最終年度は、得られた画像の解析手法の確立と平滑筋細胞の観察手法確立を目指した。解析では、連続撮影された数枚の画像を積算させた後にフィルター処理をすることでサルコメア内に微細な分子構造を確認することが可能になった。これにより、確認が難しかったZディスクと1つのフィラメントの結合部分、Mラインの中央に存在するミオメシンらしき分子を確認することができた。現在、Zディスクから伸展しているタイチンやアクチンフィラメントに結合しているトロポミオシンなど他にもサルコメアに存在する分子が確認できるかを解析している。一方で、骨格筋とは別の筋組織である平滑筋の観察手法の確立も試みた。こちらは組織から採取はせずに平滑筋細胞を培養して組織化させた後、細胞が生きている状態で細胞膜表面を高速AFMでリアルタイム観察を行った。細胞膜表面には多数のフィラメントが束化した構造やエンドサイトーシスと見られる穴が時間経過で開閉する様子が多く見られた。以上のように、徳安法で得られたサルコメアや生きている平滑筋細胞の高速AFMによる高分解能の観察は、これまでに電子顕微鏡でしか確認されたことのない組織の微細構造を水溶液条件下で捉えた初の研究である。徳安法であれば今回扱っている筋繊維以外の組織も切片として取得することが可能であり、高速AFMと組み合わせることで今回の研究で示した数ナノメーターの空間分解能の観察可能である。これらの手法は水溶液条件下で特殊な蒸着や修飾なしに組織を観察することができる点で病理学や形態学の分野に貢献できると考えている。
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