研究課題/領域番号 |
17K15151
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石原 潤一 千葉大学, 真菌医学研究センター, 特任助教 (40732409)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラマン散乱分光 / ラマンスペクトル / シアノバクテリア / ヘテロシスト / 光合成色素 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、785nmの励起波長レーザーを使用し、多細胞性シアノバクテリアAnabaena sp. PCC7120(以下、Anabaena)の栄養細胞とヘテロシストからラマンスペクトルを計測すると、生体分子に由来するラマンバンド成分が多く含まれていることを見出した。特に、ヘテロシスト特異的に強度が低くなるラマンバンドも含まれており、これらの由来する生体分子を明らかにすることで、分化マーカーとして使うことが可能となる。 そこで、研究代表者は、Anabaenaの生細胞から得られたラマンバンドが光合成色素に由来すると考え、785nmの励起波長レーザーを使用し、市販されているクロロフィルa、ベータカロテン、フィコシアニン、アロフィコシアニンのラマンスペクトルを計測した。その結果、栄養細胞(とヘテロシスト)で確認されたラマンバンドのシフト(cm-1)が、これら4つの光合成色素で確認された共鳴ラマンバンドのシフトとほぼ一致することを見出した。さらに、これらの共鳴ラマンバンドを各色素に含まれる官能基の振動・伸縮モードと対応させることにより、生細胞で見られた計25個のラマンバンドが光合成色素の共鳴ラマンバンドによるものと結論づけた。 以上の解析の結果、クロロフィルaとベータカロテンの1細胞あたりの含有量は、栄養細胞とヘテロシストの間で有意差がないことがわかった。また、フィコシアニンとアロフィコシアニンの1細胞あたりの含有量は、ヘテロシストに分化すると顕著に減少することがわかった。ここで、フィコシアニンとアロフィコシアニンにそれぞれ帰属されたラマンバンドの強度は、ヘテロシスト分化することにより、色素ごとに強度の低下度合いが同じであることもわかった。これらの結果は、フィコシアニンとアロフィコシアニンの自家蛍光を解析する方法に較べ、より微小な含有量の変化を追跡できることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年次計画通り、生細胞から計測されたラマンバンドを特定の生体分子に帰属させることができたため。これにより、ヘテロシスト特異的に強度が変化するラマンバンドの帰属を明らかにでき、このラマンバンドを分化マーカーとすることで、細胞が分化する兆候を従来の方法よりも早い段階で捉えることができるようになった。 この進展を踏まえ、顕微鏡下でAnabaenaを長期培養・観察する系の開発にも着手し始めた。
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今後の研究の推進方策 |
Anabaenaを顕微鏡下で長期培養・観察できる系を、マイクロデバイスによって構築する。この系を用いることで、1つのAnabaenaフィラメントに含まれる標的細胞群の形態を観察しつつ、各細胞のラマンスペクトルをタイムラプス計測することが可能となる。この計測技術により、可逆的に分化し始めた細胞群を見つけ出し、分化細胞が非可逆的に決定するまでの生体分子(光合成色素)の発現や局在・拡散を議論できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
生細胞から取得されたラマンスペクトルの帰属を明らかにする際、本当に4種類の光合成色素で説明できるかを検証するため、解析作業に時間を費やした。実際、光合成色素で帰属できることが分かったため、他の候補分子を試す必要がなくなり、その分の費用を次年度に繰り越すことにした。主に培地やデバイスを作製するための費用に充当する予定である。
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