研究課題
本研究では、体の左右軸決定に関わるシグナル経路を明らかにすることを最終目標とし、特に左右決定に関わることが強く推測されているノードの不動繊毛におけるカルシウム動態の可視化を目指している。マウスの8日胚に見られるノードには、回転性の運動を行い流れを作り出す動繊毛とノード周縁部に局在する不動繊毛とが見られる。この不動繊毛は動繊毛により作り出された流れを感知することで左右の決定を行うと考えられている。このとき、不動繊毛からカルシウムが流入することがシグナルの開始であると考えられているが、シグナルの実体は不明であり、マウス胚性繊毛においてはっきりとしたカルシウム流入を可視化した研究はない。本研究の目的は、繊毛由来のカルシウム流入を可視化し、これが左右決定に関わることを示すことである。これまでに、我々はマウスのノード繊毛特異的にカルシウムセンサータンパク質GCaMP6を発現させ、繊毛におけるカルシウム濃度変化を可視化することに成功した。また、細胞質におけるカルシウムシグナルと繊毛におけるカルシウムシグナルの関係性を解析するために、繊毛でのGCaMP6とともに細胞質性のカルシウムセンサーとしてRGECO1を発現するラインを用いた解析を行った。その結果、細胞質、繊毛ともに非常に活発なカルシウム濃度の振動を示すことが明らかとなった。現在は、左右軸決定へのこれらカルシウムシグナルの寄与と、細胞質におけるカルシウムシグナルと繊毛におけるカルシウムシグナルの関係性の解析を行っている。また、共同研究を通して、流れの刺激の実体を明らかにする研究にも取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
我々は、現在までにマウス胚のノード繊毛に着目したカルシウムイメージングに取り組んだ。現在までに、マウス胚ノード細胞において、ノード繊毛をカルシウムセンサーGCaMP6および蛍光タンパク質mCherryでラベルするライン、さらに繊毛をGCaMP6、細胞質をRGECO1でラベルするラインの準備を完了した。さらにそれを観察するためのスピニングディスクタイプの共焦点顕微鏡(CSU-W1)を利用することで、十分な時間解像度で繊毛、細胞質におけるカルシウムシグナルを捉えることができた。これらの観察により、左右決定に関わる繊毛におけるカルシウムシグナル、さらにその下流に存在すると思われる細胞質におけるカルシウムシグナルの可視化と解析を試みている。特に、繊毛におけるシグナルと細胞質におけるカルシウムシグナルの関係性、さらに繊毛におけるシグナルが左右決定におけるシグナルに関わるかどうかを明らかにするための解析に取り組んでいる。また、共同研究者とのプロジェクトである、光ピンセットによる不動繊毛に対する物理的刺激をあたえ、イメージングを行うシステムを立ち上げた。現在理化学研究所の当研究室におけるシステムで充分な精度で物理的刺激を与えることに成功している。
今後は、現在までにみられているカルシウムシグナルが、左右決定に関わることかどうかを解析する。現在観察されている繊毛でのシグナルが、実際に繊毛に局在するチャネルを由来するものであることを確認する。また、当研究室が保持する、繊毛が不動となる変異体や繊毛を有さない変異体の観察を行い、繊毛、細胞質のシグナルを定量的に評価、比較する。特にノードの左右でシグナルに何らかの違いがないかを詳細に解析する。また、さまざまな阻害剤を用いた実験を行い同様の解析を行う。また、共同研究を通して、不動繊毛が感知するシグナルが化学的なものか物理的なものかを判別するための実験にさらに集中的に取り組む。光ピンセットによる物理的刺激によって繊毛に局在するチャネルを介したカルシウム流入が誘起されるかどうか、さまざまな刺激の与え方をおこなうことで検討する。これらの実験により、これまで不明であった不動繊毛がノード流からシグナルを受け取る仕組みを明らかにする実験を行う。これらの研究により、これまで不明な部分が多かった、左右決定時における繊毛とカルシウムの役割について明らかにする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Scientific Reports
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実験医学 2018年4月号: 一次繊毛の世界
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