研究課題/領域番号 |
17K15155
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
原 佑介 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20749064)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インスリン / 温度 / ショウジョウバエ / 休眠 / 環境適応 / 電気生理 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエの雌の成虫は短日・低温・饑餓条件に曝されると、高頻度で卵巣の発育を停止する。この卵巣発育の調節は、脳内に存在するインスリン産生細胞の活動によって支配されている。過去の多くの研究から、インスリン産生細胞は様々なしくみで栄養情報を受け取っている事が知られている。しかし、日長や温度といった環境情報がインスリン産生細胞にどのような影響を与えているのかは明らかでない。この疑問を明らかにするため、本年度は“温度”に的を絞り、温度変化がインスリン産生細胞の活動に与える影響を電気生理学的手法により調べた。その結果、(1)羽化直後のインスリン産生細胞は低温刺激に対して大きな膜電位変動を示さない、(2)羽化後一週間非休眠条件(長日・室温・摂食)に置かれた雌のインスリン産生細胞は、低温に応答して大きく脱分極し、低温曝露中持続的に発火する、(3)羽化後一週間休眠条件(短日・低温・饑餓)に置かれた雌のインスリン産生細胞は羽化直後と同様に低温に対して大きな膜電位変動を示さない、という三つのことが明らかとなった。これらの結果から、インスリン産生細胞は羽化後の飼育条件に依存して低温に対する応答性を変化させることが分かった。これは、環境に応じた卵巣発育の変化という生物の生理的応答を、脳内の一つの神経細胞の電気活動の変化から読み解いた発見である。更に、羽化後一週間非休眠条件に置かれた雌のインスリン産生細胞で見られる温度応答の分子機構の解析を行ったところ、K2Pチャネルをコードする一つの候補遺伝子が見つかった。これらの研究成果はThe 3rd International Insect Hormone Workshopで発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、インスリン産生細胞の温度応答に関わるチャネル遺伝子の同定を一つの目標として設定している。この遺伝子として、本年度は既に一つの候補遺伝子を見つけるに至った。また、インスリン産生細胞の低温応答能の獲得が羽化後の環境条件に依存するという知見は当初計画の想定外の成果であった。以上の事から、研究の進捗状況は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では成虫休眠を制御する新規細胞としてDLPsを想定し、この細胞の卵巣発育における機能解析をH30年度以降の計画としている。この計画に基づき、H29年度に得られた研究成果を含めて、H30年度は具体的に以下の実験を行う: 1. DLPsの卵巣発育における機能を探るため、DLPsとインスリン産生細胞との相互関係を光遺伝学的手法と電気生理学的手法を組み合わせて解析する。 2. 温度応答性チャネルの候補として同定されたK2Pチャネルを主なターゲットとしつつ、インスリン産生細胞の温度応答の分子機構の解析を進める。 3. H29年度に新たに明らかとなった「インスリン産生細胞の環境依存的温度応答能の獲得」がどのようなしくみによるのかを探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は成虫休眠を制御する新規神経細胞の研究を開始する予定であったが、インスリン産生細胞の温度応答に関して新たな研究成果が得られたため、計画を変更してその解析を行うこととしたため、未使用額が生じた。このため、成虫休眠を制御する新規神経細胞の研究は次年度開始する事とし、未使用額はその経費及びH29年度の研究成果の論文投稿費用に充てる事としたい。
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