研究実績の概要 |
インスリン産生細胞(IPCs)は成虫休眠を調節する脳内神経回路の中枢である(Ojima, Hara et al., 2018)。初年度(H29年度)は、このIPCsにおける温度応答特性を電気生理学的手法により解析した。その結果、IPCsの温度応答は羽化後の飼育条件によって経験依存的に大きく変容する事が見出された。すなわち、羽化後、非休眠条件で育てられた雌のIPCsは低温に対する脱分極性の応答能を獲得し、低温刺激に対して大きな脱分極と持続的発火を示すが、休眠条件で育てられた場合にはそのような応答能は獲得されず、低温暴露時の発火は認められなくなる。この結果に基づき、本年度(H30年度)は非休眠条件のIPCsで見られる大きな脱分極応答の分子機構の解析を進めた。その結果、特定の味覚受容体がこの応答に関わることを新たに発見した。この味覚受容体がIPCsにおいて発現している事を実証するため、パッチ電極を用いた細胞質の回収による単一細胞RT-PCRを実施し、発現を確認した。さらに、IPCsで発現する4つのインスリン様ペプチド(Dilp1, 2, 3, 5)の発現についても単一細胞RT-PCRによる発現解析を行なった。その結果、それらペプチドの発現は温度応答特性と同様に、羽化後の飼育条件によって変化することが明らかとなった。したがって、環境依存的な膜特性の変化とインスリン様ペプチド発現の変化を組み合わせることにより、IPCsは卵巣発育を巧みに調節し、成虫休眠制御の中枢として機能するものと想定される。
|