研究課題
本年度は視細胞外節の形態の違いが光応答に及ぼす影響を検証するためシミュレーション実験を行った。脊椎動物に存在する2種類の視細胞は異なる光応答特性を示す。すなわち、暗所視を担う桿体視細胞の光応答の特性は、明所視を担う錐体視細胞に比べて高い光感度と速い応答の回復を示す。これらの特性の違いに関して、それぞれの視細胞の光シグナル伝達関連タンパク質の局在や細胞の形態の違いがどのように関与するかを、視細胞のシミュレーション実験により検証した。まず、マウスの桿体視細胞の形態をもとに、41個のディスク膜からなる3次元モデルを構築した。モデルの形質膜、細胞質、ディスク膜に相当する座標には光情報伝達関連タンパク質や2次メッセンジャー等の分子を配置させた。桿体視細胞モデルの光応答のシミューレーションではオプシンの光異性化を起点として引き起こされるカチオンチャネルの開閉によってえられた膜電流の時間変化が、生体の光応答を再現することを確認した。次に、光情報伝達関連タンパク質の濃度や反応速度は、マウス桿体視細胞のモデルと同じ値を用いたままで、形態のみを錐体の外節の特徴であるラメラ状構造に変更したモデルを構築し、光応答をシミューレートした。この形態のみ錐体の膜構造をもち光情報伝達系は桿体の性質をもつモデルにおいては、桿体視細胞モデルに比べて光応答の振幅が減少し応答の速さも速くなった。以上の結果から、桿体と錐体の外節の違いにより光応答の感度や応答速度が影響をうけることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
網膜における遺伝子導入マウスの実験については、網膜の細胞において遺伝子導入された細胞の割合が低く電気生理学的測定には至っていないが、導入効率を高めるために新たな方法を計画している。また、視細胞のシミュレーション実験に関しては年度当初の計画通り、細胞の形態の違いやシグナル伝達関連タンパク質の細胞内局在の違いが光応答の増幅効率に影響を及ぼすことを明らかにした。以上のことから、おおむね順調に進展していると評価した。
in vivoエレクトロポレーション法により遺伝子を導入したマウス網膜から電気生理学的測定を行う計画に関しては、遺伝子が導入される細胞の割合が低いため測定には至っていないが、遺伝子の導入に成功した細胞における遺伝子組換えは、高効率で起こることが確認できた。今後はin vivoエレクトロポレーション法によるマウス網膜への遺伝子導入の手法を変更し、子宮内エレクトロポレーション法により全細胞で遺伝子組換えされたマウスの作成を試みる。さらに、作成され遺伝子組換えマウスの網膜から電気生理学的測定を行う。シミュレーション実験については、桿体と錐体の形態と光応答の関連を光シグナル伝達反応プロセスの観点から詳細に解析する。また、光異性化量や光刺激部位の違いが光応答に及ぼす影響についても検証する。
シミュレーション実験のために購入予定の計算機が、計画当初より低価格で導入できたため、節約できた予算分を繰り越した。次年度の計画では、新たに遺伝子導入実験を計画しており、その実験器具や試薬などの消耗品の購入に予算を充てる予定である。
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Scientific Reports
巻: 8(1) ページ: 7455
10.1038/s41598-018-25867-x