脊椎動物の網膜に存在する2種類の視細胞である桿体と錐体は、その光応答特性が互いに異なる。この違いに関して視細胞の外節の形態の違いや光シグナル伝達分子の局在が及ぼす影響を数理モデルにより検証した。前年度まではマウス桿体視細胞と錐体視細胞の外節の膜構造の違いを反映した3次元モデルを構築(桿体モデル・錐体様モデル)し、各モデルに同様の光シグナル伝達分子が存在する条件下で、シミュレーション実験を行った。本年度は、構築したモデルを元に、構成するシグナル伝達関連分子の光異性化の開始位置、拡散係数、局在が光応答特性に与える影響を検証した。その結果、光シグナル伝達物質の拡散係数の違い関わらず、視細胞外節の形態が桿体モデルでは錐体モデルに比べて光応答の振幅が大きくなり、光応答速度が遅くなることを確認した。次に、ディスク膜において光反応の起点であるロドプシンの光異性化が起きる部位により光応答特性が変化するかを調べたところ、桿体モデルでは光応答特性に違いは見られなかったのに対して、錐体様モデルではラメラ膜の部位により光応答の振幅や応答の速さに顕著な違いがみられた。この結果から、桿体視細胞の外節のディスク膜状の形態をもつことにより、光シグナル増幅効率を高めることに加え、ロドプシンの光異性化が起きる位置による光応答の偏差が小さくする効果があることが分かった。すなわち、桿体視細胞の外節の形態は、1光量子に対して大きな応答を示す役割に加えて、光異性化の部位の違いによる光応答のばらつきを抑制し正確なシグナル伝達を担保する役割があると考えられる。また、シグナル伝達下流のホスホジエステラーゼのディスク膜上の局在を不均一に分布させたところ、光応答特性には大きな違いは見られないことが分かった。
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