研究課題
光受容タンパク質ピノプシンは、Opn5L1と同様に脊椎動物が持つ非視覚性の光受容タンパク質の一種である。これは鳥類を含む爬虫綱の動物において特に松果体に特異的に発現することが知られている。ピノプシンの遺伝子は、哺乳類や硬骨魚類のゲノムから失われており、基本的には一部の脊椎動物の松果体における光受容を担うものと考えられてきた。動物の非視覚性光受容の機能解析プロジェクトの1つとして今年度、ピノプシンの解析を行った。種々の条鰭綱魚類(ガー、チョウザメ、ポリプテルス)や軟骨魚類(トラザメ)、無尾両生類(カエル)の網膜を分子組織学的に解析し、これらの動物においてはピノプシンが松果体のみならず、網膜の視細胞にも発現し、特に一部の桿体視細胞の外節に発現していることを示した。過去の報告においてピノプシンは視物質と同様にトランスデューシン(視細胞で特異的に働くGタンパク質)を活性化することが示されているため、ピノプシンは桿体視細胞外節において視物質と同様に機能するものと考えられた。そこでピノプシンの分子特性(熱活性化頻度・熱安定性)を解析したところ、その性質は明るいところで働く錐体視物質と比較して、暗いところで働くロドプシンに近いことを示した。さらに分子系統解析を行うと、分子進化の過程でピノプシンはロドプシンに先んじて現れていることがほぼ確実であることがわかり、ピノプシンは脊椎動物における初期型の薄明視視物質である可能性が示された。
4: 遅れている
特定の光受容タンパク質を発現する細胞の機能を解析するため、トレーサーとして機能する遺伝子(小麦胚芽凝集素・ニトロ還元酵素など)をノックインした、もしくはトランスジェニックしたメダカの作出を試みている。既報に従い、Cas9 mRNA(もしくはタンパク質)、ガイドRNA、ノックインドナー(プラスミドもしくは一本鎖オリゴヌクレオチド)のメダカ胚への顕微注入によるゲノム編集を行っているが、現在のところ成功していない。一方、同様にCrispr/Cas9を用いたノックアウトメダカの作出は進行しており、非視覚光受容タンパク質の遺伝子(Opn5L1、Opn5m、Opn3)をノックアウトしたメダカ系統を作出し、確立した。これらの遺伝子が神経系のどの領域で発現しているかについてもmRNAレベルでの解析が終了し、今後解析を進める予定である。
いくつかの光受容タンパク質の遺伝子をノックアウトしたメダカ系統を作出し、確立したため、これらのノックアウトメダカを用いた遺伝子の機能解析を行う。各遺伝子の発現領域、及び大まかな分子特性(吸収波長や活性化するGタンパク質のサブタイプなど)は既に解析済みであるため、それらのデータに基づき、研究を進行させる。また、実験条件を見直しながら、ノックイン・トランスジェニックメダカの作成についても行う。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Communications Biology
巻: 1 ページ: 156
10.1038/s42003-018-0164-x
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id569.html