本研究は、脊椎動物にみられる性決定遺伝子の多様性を理解するために、性決定遺伝子が頻繁に交代するメダカ属において、常染色体のGsdfから独立に性決定遺伝子に進化した、性決定遺伝子がGsdf である3 種のメダカ(ルソンメダカ、ペクトラリスメダカ、長崎産ミナミメダカ)を用いて、性決定遺伝子誕生の分子機構を特定しその共通性を解明することを主目的とした。前年度までに、長崎産ミナミメダカの性決定遺伝子GsdfneoYの上流にある5.5kbの挿入配列が原因配列であることを特定した。今年度は、この5.5kbの挿入配列がなぜ性決定機能を付与したかを探索した。 (1)5.5kbの挿入配列はLTR Retrotransposonである BLASTや分子系統解析を行ったところ、両端にLong terminal repeat (LTR)を持つLTR RetrotransposonのSushi-ichiであることが明らかになった。そして、GsdfneoYの新規転写開始地点がLTR内にあること、転写開始の向きがSushi-ichiが機能するプラス鎖ではなく、逆向きのマイナス鎖であった。これらはSushi-ichiの活性を抑制するマイナス鎖の転写機構を利用して、性決定機能を獲得したことを示唆する。 (2)Sushi-ichiは高い転移活性を持つ 全ゲノム配列が利用可能なミナミメダカのHd-rR系統とキタノメダカのHNI系統においてSushi-ichiを探索したところ、それぞれ10コピー以上発見することができ、それらの挿入ヶ所は1コピーも一致しなかった。さらに、Hd-rR系統のもとになったd-rR系統でも挿入ヶ所を調べたところ、一致しない挿入ヶ所が複数発見された。これらの結果は、Sushi-ichiは日本のメダカ種間・種内・系統内で転移するような高い活性を持つことが明らかになった。
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