サンゴ共生藻とも呼ばれる褐虫藻(Symbiodiniaceae)と宿主刺胞動物との細胞内共生系は、特に熱帯から温帯の貧栄養海域において、一次生産を支える重要な生態的地位を占める。近年、「サンゴの白化」など共生崩壊現象が大きな環境問題となっているが、共生の成立に関する細胞レベルでのメカニズムは未解明な点が多い。これまで、モデル刺胞動物であるセイタカイソギンチャクに蛍光ポリスチレンビーズをプローブとして餌と共に食べさせ追跡観察する従来の取込実験の際、共生体と宿主の膜との関係、すなわち生きた刺胞動物体内における細胞外と細胞(食胞)内を顕微鏡観察時に区別することが技術的に困難であった。本研究では、胃内腔のプローブの動態をライブイメージングや細胞分画などの手法を組み合わせてより詳細に解析した。その結果、蛍光によるダメージを防ぎつつ長時間観察することにより、ライブ蛍光顕微鏡観察において細胞内外のプローブを識別するための技術基盤を開発することができた。この結果と、プローブと同程度のサイズの褐虫藻を取り込ませた場合の観察結果とを比較解析することにより、褐虫藻が安定に維持される過程において、特に宿主内胚葉が細胞を取り込む活性が大きな役割を果たす可能性が示された。また褐虫藻のゲノム解析により、誘引シグナルとして働く宿主刺胞動物の緑色蛍光を受容すると考えられる共生体の光受容体遺伝子や、その発現に関わる転写後調節機構が、褐虫藻系統が分化する初期の段階で既に獲得されていたことが示唆された。
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